解剖学者の養老孟司氏によると、1990年代以降、世界中で虫の数が劇的に減っているそうです。この事象と、日本をはじめとした先進国が直面している「少子化問題」には、何らかの関係があるのでしょうか? 養老孟司氏と名越康文氏の共著『ニホンという病』(日刊現代)より、詳しく見ていきましょう。
自然から学ぶ機会が失われた子どもたち
―健全な精神をつくらないと歪んでいってしまう。
名越 健全な精神ってぜいたくなことやね。1980年代、90年代ぐらいまで言われてたけど、それがないと箸にも棒にもかからなくなるよって、ちょっと分かってきたんじゃないかなと思うんですよ。
養老 子どもなんてみんな注意欠陥多動性症候群ですよ。
名越 ほんと、そうです。だから一つに集中して、感覚遮断みたいにしてえらく勉強する子か、何にも集中しない、関心を持てない子が量産されるような教育システムになっている気すらします。
―今は教室にまでPCやタブレットが入って来て、そこで勉強。五感、六感で判断することがなくなってきているようにみえます。
名越 カリキュラムを今日からやめっていったらいいんですけど、教育の現場のみならず教材を刷る人、作る人などなど、すごいシステムが動いているんだからそうはいかない。
―逆説的ですけども、大地震のようなガラガラポンが起これば、そういうシステムが変わる可能性はあるのでしょうか。
名越 通常ならめったなことは言えませんが、現在の日本にとってはリアルな話ですからね。もしそうなるとあふれてしまう人がいっぱいいるから、全体が動くかも知れませんね。その時に元に戻すのではなくて、残っているインフラや人員やその地域の自然環境をとりあえず活用した教育が仮に始まれば、可能性はあると思います。既得権益もいったん崩壊しているだろうし。
―地方では独自のカリキュラムで運営している学校が出始めています。周りの自然環境が豊かですからね。少しはそういった動きが出てきています。
養老 だいたい大人が邪魔するんですよ。爺さんが邪魔する。しつけなきゃいけないと思い込んでいますから。子どもは勉強するもんだとか。本当に勉強しなけりゃいけないのはおまえだろうって(笑)。
虫捕りのイベントなんかで小学生の子どもたちと付き合っているんだけどね。広島の虫捕りイベントの時も、その手の教育を受けていないから親が喜んで参加しているんですよ。何も言わないだけで。一番うれしそうですよ。