Aさんがひきこもりになったワケ
Aさんがひきこもりになったのは43歳のときです。ひきこもりになって、もう20年近くになります。昔は結婚もして子どもこそいませんでしたが、Aさんの実家で当時はまだ元気だった両親とAさん夫婦の4人で静かに暮らしていました。
もともと大人しかったAさんですが、40歳を過ぎて勤めていた会社が急に倒産、次の仕事もなかなか決まらなかったことから離婚につながってしまい、そのころからすっかり暗くなりひきこもるようになってしまいました。
収入がまったくないAさんですが、生活は92歳の父親の年金とわずかな貯蓄頼みです。母親は亡くなるまでAさんの心配をしており、父親は文句ひとつ言わずにAさんにお金を渡しています。
妹さんはAさんに対し、ときどき不満をぶつけていました。しかし、令和になったばかりのころに川崎市や練馬区で立て続けに起きた事件がきっかけで、その後は腫れ物にさわるようになってしまい、なにも言わずに我慢して父親の面倒を見続けていました。
父、倒れる
ある夏の暑い日、妹さんが実家を訪ねると父親が熱中症で倒れているのを発見します。あわてて救急車を呼び、結果命に影響はなかったのでよかったのですが、部屋にひきこもっていて父親の異変に気付かなかった兄にこのときばかりは妹さんも激怒しました。
「兄さんがしっかりしないから、お父さんが死んじゃったらどうするの!? お父さんに面倒みてもらってるんでしょ。なにやってるの!!」
すると、なにを言ってもいままで無表情だったAさんが突然泣き出しました。
「本当は僕もね。とても悲しいんだ。妻がいなくなったときも、お母さんが死んでしまったときも。あれからずっと心が苦しくて苦しくて仕方がないんだよ。でも、人の目が怖くて動くこともできない。お母さんもお父さんも優しかったし、自分で人生を終わりにすることもできない。僕はダメな人間なんだ」
Aさんは嗚咽しながらも続けます。
「僕は孤独死なんか怖くないと思っているんだ。食べるものがなくなってどうしようもなくなっても仕方がないと思っている。でもまだ食べられるんだ。仕事を辞めたあともお父さんが僕の将来を心配して国民年金の保険料を払い続けてくれたから、昔働いた厚生年金の分も合わせると月に10万円くらいにはなる。お父さんの生命保険もある。僕は65歳を過ぎたあともまだまだ食べれるんだ。僕はどうしたらいいんだろう。どうすればいいと思う?」
Aさんの鬼気迫る告白に妹さんは固まってなにも言えなくなってしまいました。そして、両親ともAさんのこの苦しみを理解していたからなにも言わなかったのかな、と思いました。
<参考>
※ 令和5年度版厚生労働白書 本編図表バックデータ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)
厚生労働省は、令和4年1月に、ひきこもりに関する情報をまとめたひきこもり支援ポータルサイト「ひきこもりVOICE STATION」を開設しています。
→https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/
また、全国のひきこもり支援センターの相談窓口はこちらから。
→https://hikikomori-voice-station.mhlw.go.jp/support/
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表