
投資で失敗すると…
投資で損失を抱えたり、借金の返済に追われたり、切羽詰まった状況ではハイリスクだとわかっていても、FXや暗号資産といったリターンの大きい投資に手を出す人がいます。『損失を埋めたい』という焦りが冷静な判断を妨げ、さらに深刻な状況へと陥ることもあります。今回は、Fさんの事例を通して、その心理的背景を行動経済学の観点から考え、資産形成における重要なポイントを解説します。
父からの「同居の相談」
Fさん:38歳 会社員 年収650万円
妻:34歳 会社員 年収480万円(Fさん夫婦の子ども:1歳、3歳)
Fさんの父:62歳 自営業
Fさんの母:60歳 無職
Fさん夫婦はどちらも大手企業に勤務し、子どもが2人の4人家族です。両親も近くに住んでいて、健康な母は2人の子どもの保育園送迎なども適度にサポートしてくれます。Fさん夫婦の子育て方針を尊重して孫に関わってくれる母のことを妻も感心している様子で、実家で集まった際、妻は「実母よりも頼りになる」というほど良好な関係です。
Fさん夫婦が住宅購入を検討し始めたころです。父がFさんに「実はな、FXで大きな損失を出してしまって……。それを埋めようと暗号資産にも手を出したけど、さらに失敗してしまったんだ……」と打ち明けます。
事業のほかに収入があればと軽い気持ちでFXを始めていたのが、ここしばらく事業のほうが不調で、手っ取り早く収入を増やそうとFXでの投資をさらに増やしたそうです。多少の利益もあったようですが、カンや場当たり的な取引をしていた結果、損失が膨らんで貯金も使ったあげくクレジットカードのキャッシングも利用しているとのことです。
「実家は賃貸です。私が就職して家を出てからも、両親2人暮らしにしては広すぎると思っていましたが、両親は生活レベルを下げたくないようで……。でも家賃の支払いも厳しくなって、住宅購入するなら同居させてほしいと頼んできたんです」
母と妻子の関係も良好で、Fさんは「お義母さんたちと一緒に暮らすのも楽しそう」といった妻の言葉も真に受けていたようです。
Fさんは「FXや暗号資産などリスクが高い投資なんて、そもそも余剰資金でやるべきものなのに、キャッシングまで利用していたなんて……」と、父の軽率な行動にショックを隠せません。しかし、現在大手企業に勤め高い収入を得られているのも、よい環境で育ててくれた両親のおかげと恩義を感じ、(兄弟姉妹がいないので)自分がなんとかすべきだろうかと悩みます。一方で、Fさんもこれから2人の子どもの教育費を準備していかなければなりません。
両親は将来の年金も少ないので、まず「(自営以外で)ほかの仕事もすれば」と提案すると「シニアで求人募集にでている仕事のなかで、やりたいものはない」「ほとんど働いたことないから無理。孫の世話はしっかりやるから」という父母の言葉を、Fさんは普段仕事などで接する身近な60代の方と重ね合わせながら聞いていました。
「60歳で定年退職した元上司も、セカンドキャリアで新しいことに挑戦しているのに……。健康なんだから、まだ自分たちでなんとかしてほしい」という思いをどう伝えようか悩み、住宅購入への気持ちが下がってしまいました。
その後、転勤が決まったことでFさんの住宅購入計画は白紙となりました。そして、引越代をサポートし、両親は手ごろな賃貸住宅へ転居しました。