肝臓をいたわる「極意5ヵ条」

「では、ヘトヘトな由美さんの『肝臓の働き方改革』のコーナーに参りましょう」

なるほど、面白い表現だ。

「『極意5ヵ条』として、皆さんにお伝えしています。第1条は『体重を1日1回量はかって記録する』こと。体重記録表をお渡しするので、外来のたびに提出していただきます。体重だけでなく、食事内容も記録してください。スマホで写真に撮るだけでOKです。1日5分ぐらいでできます。体重と食事を記録すると、セルフコントロールできるようになって、ダイエット効果が高まるんですよ

体重は気になりながらも、何となく体重計に乗っては数字を見なかったことにする日々だった。ここは、しっかり記録して自分と向き合おう。

第2条は『甘い飲み物をやめる』ことです。砂糖入りの飲み物、炭酸飲料や砂糖入りコーヒーのような甘い飲み物は肝臓の脂肪を増やしやすいので、すべてやめてください。野菜ジュースや果物ジュースなども同じです。飲み物は水かお茶、ブラックコーヒーにして、肝臓のスリム化を目指しましょう

よかれと思っていたが、野菜とフルーツを飲み物にしてはいけないとわかった。

第3条は『野菜を増やす』こと。1日で両手にこんもり350gが野菜摂取量の目安ですが、いつもの2倍と覚えて実践してください。生で食べなくてもいいですよ。温野菜にしても、スープにしても、肉や魚と鍋にしてもいいでしょう。

野菜に含まれる食物繊維を十分に摂ることで、食事の満足感が出るとともに食欲の抑制にも繫がります。特に緑黄色野菜を多めに食べるように意識して、『ベジファースト』『サキベジ』でお召し上がりください。そうそう、じゃがいも、さつまいも、かぼちゃ、とうもろこしは糖質が多いです。毎日欠かさずポテトサラダとバターコーンを食べましたと、報告するのはナシですよ」

野菜は好きだ。でも、量が必要になりそうだし、上手にまとめ買いをしなくちゃ。

第4条は『糖質を減らす』こと。糖質が多い主食のご飯やパン、そばやうどんなどの麺類を減らすことは、肝臓にダメージを与えないために重要です。糖質量は1日トータルで70~130gを目標に。1食あたりでは、約40gになります。ご飯は1食で半膳70gまでなので、最初はきちんと重さを量ってください。満足感を得るために、おかずの量は増やしてもかまいません。ただ、雑穀ご飯や玄米にしても、糖質量に大きな差はありません

主食の量を守るには、外食では難しそうだ。しばらくは自炊でがんばろう。

第5条は『加工食品を減らす』こと。加工食品には食品添加物が多く、肝臓はせっせと解毒作業に励まなくてはいけなくなります。せっかく脂肪を減らすために糖質を控えても、加工食品をたくさん食べていたのでは肝臓は休まりません

加工食品を積極的に食べようとは思わないけれど、思い返してみるとつい食べていることがある気がする。これも食べたらSNSかな。

「『極意5ヵ条』を守っていただければ、由美さんの肝臓は元気になります。体重もきちんと落ちます。がんばりましょう。ほかに気になることはありますか?」

実は、最初から気になっていたことがあった。

「先生は肝臓外科のドクターですよね? なぜ、食事の指導もされているんです?」

「はい。肝臓外科医なので、今も本業は肝臓の手術です。でも、生まれ持った肝臓を切除したり、ほかの方の肝臓を移植したりしなくて済むなら、それに越したことはないでしょう?

ところが昨今、非アルコール性脂肪肝炎から、肝硬変、肝臓がんへ進行してしまう方が増えていて、危機感があります。でも、脂肪肝、脂肪肝炎のうちに食事を変えることができれば、肝硬変や肝臓がんは予防できます。そのために、科学的根拠に基づく食事法で減量する方法をお伝えしているのです。深刻な病気になってから治療するより、病気にならないほうが幸せですから」

ここまで患者のことを考えてくれる先生なのだ。先生を信じよう。

「私、がんばります。減量して、元気な肝臓を取り戻します」

「一緒にがんばりましょう。では、次回は1ヵ月後にお目にかかりたいと思います。この紙に今の体重と次回の目標体重を記入して読み上げてもらえますか?」

と、先生から手渡されたのは「私のスマート宣言」と書かれた1枚の用紙だった。

私は静かに用紙の空欄部分を埋めてから読み上げた。

「私は今66kgです。5月23日までに64kgになります! 20XX年4月23日中川由美」

「では、次回来院していただく日の約束をしましょう。いつがいいですか?」

「パートが休みなので、5月24日か31日なら午前も午後も大丈夫です」

「そうですか。では、24日の10時でいかがでしょうか」

「わかりました。よろしくお願いします」

病院を出て一呼吸つくと、これまで意識したことがなかった肝臓の存在を改めて感じ、両手を重ねた。

「脂肪肝か……。一緒にダイエットだね」

新緑の隙間からもれる暖かな日差しが、私たちの背中をそっと押してくれている。

〈先生からの処方箋〉

働きすぎの肝臓の仕事量を減らして。まず、肝臓から働き方改革です。

尾形哲


長野県佐久市立国保浅間総合病院


外科部長/「スマート外来」担当医