体重減少は最初の1ヵ月が肝心

「『スマート外来』に来てくださったということは、きっと今の生活を見直して、体をよくしたいという強い思いを持っていらっしゃるのだと思います。由美さんの“肝臓をいたわる食事”について、一緒に考えていきましょう。そのためにも、由美さんの普段の食事や体についての困りごとを教えてください」

何だか、全身の緊張がほどけた不思議な感覚にとらわれた。

「私には中学2年の娘がいます。出産後すぐは、母乳育児だったからか産前よりも体重が減る時期があったんです。だから、出産も悪くないな……とも思っていました。

でも、その後は太るいっぽうで、今は出産前より12kgほど増えてしまいました。だからといって、何もしてこなかったわけではありません。私の体型のことだけではなくて、家族にも健康でいて欲しいから、朝食は野菜とフルーツを使ったスムージーにしてみたり、ご飯に雑穀を入れて炊いてみたり。野菜不足を改善しようと野菜ジュースを飲んだり、腸活になるのでヨーグルトを食べたりすることも欠かさないようにしています。

でもだめなんですね。その結果が、脂肪肝だなんて……」

話しながら、急に涙がにじんできた。私、何で泣いてるんだ。

「由美さんは、とてもがんばられてきたのですね。だめなことなんて1つもありませんよ。今日からできることは、由美さんの肝臓をいたわること。継続すれば、由美さんの脂肪肝は必ずよくなります。大丈夫です」

先生の言葉はありがたかったが、不安が勝っていた。

「脂肪肝をよくするお薬をちゃんと飲めば治りますか?」

「脂肪肝を単独で治すことのできる薬は、今のところありません。でも、薬よりはるかに効果のある方法があります。毎日の食事を変えることです。肝臓をいたわる食事は、脂肪肝だけでなく、糖尿病や脳卒中といった生活習慣病の予防にもなるのです。ただ、実践するのは由美さん、あなたです。ほかのだれでもありません」

と先生はおっしゃった。

「ここからが本題です。脂肪肝の改善には減量が欠かせませんが、由美さんは、体重を何kg減らしたいですか?」

今の私は、身長158㎝で体重が66kg。体脂肪率は34%、BMIは26.44。そりゃ、産前の姿に戻れるなら戻りたい。思い切って素直な気持ちを答えた。

「12kg痩せたいです」

「では、3ヵ月で5kg減量しましょう」

えっ。先生ぇー、人の話聞いていましたか? と思わず、心の中で突っ込んだ。

5kg減らせば、脂肪肝は改善します。脂肪肝で肥満がある人の場合、体重の7%を目標に減量し、それから標準体重を目指していくことを勧めています。由美さんの体重は今66㎏なので、マイナス4.62㎏。つまり5㎏減らせば、肝臓から脂肪が落ちて、肝臓の炎症もなくなります

まあ、5kgだって落ちればありがたいことには変わりないが……。でもどうやって? 5kgなら食事をちょっと我慢すれば減量できるのだろうか。これまでいろいろ試してもムリだったのに……。

そんな私の心を見透かしたかのように、先生は続けた。

「12kg減らしたいという希望はわかりました。でも、急激に体重を落とすと体への負担が大きく、リバウンドの原因になりかねません。1ヵ月の減量は、体重の3%以内にとどめましょう。成功の秘訣、『マイナス2㎏の法則』をお教えします」

「マイナス2kgの法則……ですか?」

「最初の1ヵ月はkgの減量を目指しましょう。私たちの外来には、1ヵ月目に2㎏減量できた方のほぼ全員が、3ヵ月で5kg減を達成できたというデータがあるんですよ。何事も最初が肝心ですね。ちなみに、肝心という言葉は、『肝臓』と『心臓』が重要な臓器だということが語源です」

〈先生からの処方箋〉

1ヵ月目にマイナス2㎏を達成できた人は、3ヵ月でマイナス5㎏を達成できる。