年齢を重ねるなかでだれもが気にする「親の介護」。介護はいつはじまるか分からないからこそ、親がまだ元気なうちから、資産状況などを事前に把握しておくことが大切です。そこで今回、母親の介護に困るAさんの事例をもとに、親子間でやっておきたい事前対策について詳しくみていきましょう。FP Office株式会社の中洞智絵FPが解説します。
年金月16万円の75歳母「老人ホーム」入居検討→実家売却のつもりが…まさかの事態に46歳長男「なにかの間違いだろ?」【FPが助言】 (※写真はイメージです/PIXTA)

家族が認知症に“なる前”にしておきたいこと

まず最初に取り組みたいのが、親の財産状況の把握です。

 

・現金や預貯金がどこにいくらあるのか

・土地不動産の名義は誰か

・どんな保険に入っていて、受取人は誰か

・現在の年金収入はいくらで、そのうち普段いくら使っているのか

 

まず上記の4点を確認し、「年金(収入)-生活費(支出)」が常にマイナスの状況であれば貯蓄を取り崩しているということになりますから、そのままではやがて家計破綻してしまうでしょう。資金がショートするタイミングによって、対策が異なります。

 

また、「現金や預金はそこまでないが証券や株は多くある」という場合、認知症になってからでは売買や換金ができないため、事前に現金化しておくという対策も必要です。特に、今後はNISAで資産運用をはじめる人も増えますから、せっかくの資産が絵に描いた餅にならないためにも、使うタイミングに備えて現金化を検討しましょう。

 

また、不動産について、単独の名義であれば相続時に整理しやすいですが、「共同名義」になっていた場合、相続時に揉める可能性が高いです。したがって、認知症になる前に名義の確認と整理が必要です。

 

保険はどんなときにいくら出るのか、その受取人および指定代理請求人は誰なのかによって、その名義の変更が必要な場合もあります。なお、証券を紛失している場合、保険会社に確認のうえ正しい情報を把握しておきましょう。

 

これらをふまえて、Aさんが事前にとっておくべきだった対策は以下のとおりです。

 

①Aさん自身の財産状況の把握と必要資金の準備

②遺言書の作成

③家族信託の契約を結んでおく

④保険の活用

⑤土地や不動産がある場合は、贈与や相続の計画をあらかじめ立てておく

 

保険は受取人および指定代理請求人をあらかじめ設定しておくことができます。これによって現金を受け取ることも可能になるので、現金を保険にしてあらかじめ指定代理請求できるようにしておくことも得策です。

 

保険の内容としては、介護度によって保険金を受け取れる形にしておくことで、想定外の介護による資金不足に備えることが可能です。

 

相続時の非課税枠が3,000万円+(600万円×法定相続人)となったいま、「うちには関係ない」と思っていた家庭も相続税課税の対象になっていることがよくあります。一次相続は問題なく過ごせても、二次相続時に納税が多くなる場合もあるため、あらかじめ相続財産を確認し、納税の対策を立てておく必要があります。

 

「なにかあってから」では、できることが限られてしまいます。心身ともに健康なうちに、資産状況の把握と整理を進めておくことが大切です。もしも自分だけでは不安という場合には、FPなどの第三者に相談をしてみても良いかもしれません。

 

 

中洞 智絵

FP Office株式会社

ファイナンシャルプランナー