温泉地に長期間滞在して、病気の治癒や体調の回復を図る「湯治」をご存じでしょうか。こうした療養目的で温泉に入る場合は、たとえぬる目のお湯であっても「長湯は禁物」であると、温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏はいいます。松田氏の実際の経験と調査から、「湯治」の効果と賢い入浴法についてみていきましょう。
温泉はデリケート…鮮度が落ちない「賢い入浴法」とは?
かつて“名湯”といわれた温泉は、優れた還元系の温泉であったことは間違いないでしょう。ところが温泉源を取り巻く環境の悪化が還元力を弱らせていることもまた事実です。
やむを得ない面もあります。俵山温泉の場合は地域の人々の努力で自然環境が保たれ、主力の「町の湯源泉」は昔ながらの自然湧出が維持されています。
その甲斐もあり、湯口から浴槽に注がれた直後の湯と湯口からもっとも離れた湯尻の湯を比較すると、わずか6%程度しか酸化(「温泉の老化現象」)が進んでいない。じつはこのような風呂は“奇跡的”なレベルといえます。
源泉かけ流しの温泉であっても、私たちの調査ではふつう湯口から湯尻まで流れる間に温泉の“活性”は25%前後にまで落ちます。流れながら瞬く間に酸化されて、湯の鮮度、活性が衰えるわけです。それほど温泉はデリケートな“鮮水”なのです。
活性が半減、50%程度にとどまれば「酸化されにくい温泉」、すなわち「抗酸化作用に優れた温泉」と呼んでも良い、と考えています。
したがって、温泉の本質である還元系を活かした“源泉かけ流し”の風呂の場合、湯尻から浴槽に入り、最終的には湯口付近に浸かることが「賢い入浴法」と記憶してください。
松田 忠徳
温泉学者、医学博士