温泉のなかでも、「源泉かけ流し」と聞くと、良質のお湯というイメージがあります。実際のところ、その魅力とはどのようなものなのでしょうか? 源泉の魅力を「美しさ」と表現する、温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏の著書『全国温泉大全: 湯めぐりをもっと楽しむ極意』(東京書籍)より、詳しく見ていきましょう。
温泉は「生もの」で、鮮度が命
「源泉」という言葉から、何をイメージされますか? 「源泉かけ流し」という言葉がすっかり定着しましたから、源泉という温泉の専門用語も市民権が得られたといえるでしょう。源泉とは「地中から湧き出た温泉そのもの」を指します。人為的に水を加えたり薬剤などを混入しない、地中から噴出した温泉そのもののことです。
温泉は“生もの”です。私たちが採りたての野菜や果物、あるいは水揚げしたばかりの魚介類にこだわるように、湧き立ての温泉にこだわるのは科学的に理に適ったことです。「鮮魚」という言葉があるように、生ものは「鮮度が命」ということですね。
温泉は地中深く無酸素状態で誕生するため、地表に湧き出た後に空気にふれ続けることは、その“生命力”を失うことを意味します。この状態を「酸化した」といいます。私たちの細胞も酸化して、さまざまな疾病の原因のひとつとなることはよく知られているところです。
湧きたての温泉、すなわち源泉の科学的な特徴は何でしょうか? それは「還元状態」にあるということです。地下水も還元状態にあるのですが、温泉は地下数キロメートルから十数キロメートルの深さから湧出すること、またさまざまな鉱物、ガス等が含まれていることなどから、同じ還元状態でも湧水とはレベルが格段に違います。
酸化は、例えば鉄がさびることを指します。化学的には物質(水、温泉水など)が電子を失うことです。還元はその反対、電子を得ること、さびを取ることです。事実、さびたクギを温泉に浸けておくとさびが取れます。これを「還元した」といいます。エイジング(酸化)を抑制することも可能です。