温泉地に長期間滞在して、病気の治癒や体調の回復を図る「湯治」をご存じでしょうか。こうした療養目的で温泉に入る場合は、たとえぬる目のお湯であっても「長湯は禁物」であると、温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏はいいます。松田氏の実際の経験と調査から、「湯治」の効果と賢い入浴法についてみていきましょう。
長湯は禁物…「湯治の湯」は“ひどく疲れる”
俵山のようなアルカリ性単純温泉は、最近ブームの美肌効果が優先されそうな湯と思い込みがちです。先入観をもたないで他の入浴客の所作を観察していると、そこの入浴法がある程度わかるものです。ぬる目の湯ですから、時折、深く深呼吸なぞして自然体で浸かります。最初は額から汗が出てきたら、「そろそろ上がりの時間」と考えて良いでしょう。
「町の湯」では15~20分程度浸かると十分です。昭和28(1953)年に九州大学温泉治療学研究所(当時)の矢野良一教授(リウマチの専門医)の調査・研究で確認されています。1時間入浴しても効果は変わらないとまで科学的なデータが示されています。
九州大学では戦前から継続的に俵山の研究が行われていました。じつはこのような科学的な研究が行われていた温泉は日本では意外にも珍しいことなのです。
「町の湯」に入っているとひどく疲れがきます。明らかにもう1か所の露天風呂付きの共同浴場「白猿の湯」とは異なります。新陳代謝のスピードの違いです。
一見、何の変哲もない湯と軽く見たのか、長湯していた湯客が浴槽から上がった瞬間、倒れて顎をしこたまタイルの床に打ちつけ、救急車で運ばれるのを、私は目の当たりにしています。温泉に馴れているはずの私でも朝食前に20分も浸かると、体への負担は相当なものでした。
宿に帰り、30分ほど横になった後、朝食です。1日3回の入浴を軸に、食事、散策、読書、そして睡眠だけ。人生の中でこのときほど贅沢に、また幸せを感じたことはなかったものです。「温泉に恵まれた日本に住んでいて良かった」と、素直に思える日々でした。当初期待した以上に、数年分の“免疫力”の蓄えを実感しながら、札幌への帰途についたのでした。
湯治を終えたあとは「病院知らず」
7泊8日の湯治を終えた後、私の体調はいつにも増して健康そのものでした。相変わらず「病院知らず」の生活が現在まで続いており、また俵山湯治後は風邪をひくことはめったになくなったことも事実です。
それはきちんとした湯治を経験して、体調の管理が適切になったからに違いありません。