“盛り付けと器の芸術”を楽しめる「和食美」

その土地でその土地ならではの食器で、その土地の調理法で、その土地の流儀で食べてみたい。それが旅の醍醐味のひとつでもあります。

たとえば佐賀県は全国的にも有名な有田焼、伊万里焼、唐津焼など、陶磁器の一大産地で、なかでも有田、伊万里は日本の磁器の発祥地です。その地元には嬉野温泉、武雄温泉、古湯温泉など、九州を代表する歴史的名湯があります。美しい盛り付けと、器も同時に楽しめます。“盛り付けと器の美の競演”――。これはフランス料理や中国料理と大きく異なる点だと思われます。

高校時代の恩師が「フランス料理は香りで食す。中国料理は舌(味)で食す。日本料理は目で食す」と教えてくれたことを、温泉旅館の色彩あふれる料理を取材するたびに何度も思い出したものです。

それから40数年後、『ミシュランガイド東京2008』の発売で、恩師の言葉が正しかったことを知ることになります。東京が“世界一の美食の都市”であることがフランス人の手に成る『ミシュランガイド』で明らかにされ、フランス国内で驚きをもってトップニュースで報じられたのでした。

このような日本食の価値は世界で認められ、平成25(2013)年にユネスコ無形文化遺産に登録された際には、日本人としての誇りすら感じたものでした。

世界的に認められた日本食ですが、現代の日本ではそのような“和食美”を堪能できるステージは、名料理店か“粋な湯宿”ぐらいしかなくなりつつあります。大型温泉ホテルなどで見かける好きなものだけを取って食べる“バイキング方式”や“ビュッフェ方式”も悪くはないのですが、時には盛り付けと器の芸術、「和食美を楽しむお洒落な湯煙の旅」に出たいものですね。

その舞台が木造建築であったりすると、日本人であることの幸せを感じられる最高の瞬間となるかもしれません。無国籍化の時代だからこそ、日本の湯宿がますます輝く時代になったのでしょう。日本の湯宿を求めて、世界中から外国人が訪日する時代を迎えつつあります。