急速に人気を集める“天然”炭酸泉

心身に優しいナチュラルな温泉に健康増進や美容を求める女性や若い人たちがふえてきたせいか、炭酸泉(二酸化炭素泉)に対する関心が急速に高まっています。それに加えて地球の温暖化が原因なのか、“酷暑”とも表現されるくらい暑い夏には「シュワシュワ~」と、清涼感のある「ぬる湯」の炭酸泉が人気になるのもうなずけます。全身に細かな気泡が付くことから、俗に“ラムネ温泉”などとも呼ばれています。

まして“天然”の炭酸泉に浸かりながら夏場の猛暑をしのぎ、健康と美容効果が期待できるとなると、「浸からなければ損」というものでしょう。

日本の温泉法では、温泉水1リットルに250ミリグラム以上の炭酸ガス(二酸化炭素)が溶け込んでいるものを、炭酸泉と定義されています。そのなかで1,000ミリグラム以上の高濃度の炭酸泉は「療養泉」に指定され、大いに医学的な効果が期待できます。

ただヨーロッパとは異なり活火山が多い日本列島では、泉温が高いためガス成分が揮発しやすく、それだけに炭酸泉は希少価値が高いといえます。事実、炭酸泉は日本の温泉のわずか0.5%程度しか存在しません。

都市の温浴施設で“人工炭酸泉”がふえていますが、“天然温泉”の炭酸泉との大きな違いは、人工的な炭酸泉には無機物は混在していませんが、天然の炭酸泉は地中深くから湧出するので、さまざまな鉱物や有機物も含有されていることです。これらの含有成分は、もちろん炭酸泉(二酸化炭素泉)にプラスされた相乗効果が期待できます。「さまざまな成分が化合した状態にあるのが、温泉の特性であること」を肝に銘じておいてください。まさに温泉は複雑系なのです。

炭酸泉のわかりやすい特徴は全身に付着する気泡で、入浴が楽しくなります。天然炭酸泉の気泡は一般的に人工炭酸泉と比べると、小粒。しかし、天然温泉の小さな気泡の方が、皮膚を覆う被膜の表面積が大きいため、また気泡が安定的なため、結果として炭酸泉の作用は強いことが知られています。

人工炭酸泉のメリットは高濃度の炭酸ガスを作り出せる点にありますが、水を加温するため、入浴前からガスのある程度の散逸は免れません。一方、天然炭酸泉の場合はガスが抜ける量は少ないといえます。

もっとも天然の炭酸泉の場合でも、大半が20℃台から30℃未満の低温泉や冷鉱泉が多く、たとえ源泉の炭酸ガス濃度が2,000ミリグラムあっても、加温して利用することが多いのです。そのため肝心の浴槽では濃度が5分の1、10分の1というケースも少なくありません。

それだけに大分県の長湯温泉「ラムネ温泉館」(32.3℃)、七里田温泉「下湯(したんゆ)」(36.3℃)、筌(うけ)ノ口温泉「山里の湯」(38.3℃)のような、30℃台の加温していない「源泉100%かけ流し」の天然炭酸泉の人気が高まるのは、当然と言えば当然のことなのでしょう。

天然と人工の炭酸泉の決定的な違いがもうひとつあります。天然炭酸泉は“還元系”であることです。すでにふれたように温泉の本質は還元系で、抗酸化作用があることでした。天然炭酸泉には炭酸ガスの働き以外に細胞を酸化から防ぐ、天然ならではの効果があることを付け加えておきます。

一口に炭酸泉といっても、炭酸ガス濃度が多い少ないだけでは判断できないということです。もちろん他の泉質でも温泉の本質は還元系であり、源泉かけ流しであれば酸化されていないことにあります。