温泉地に長期間滞在して、病気の治癒や体調の回復を図る「湯治」をご存じでしょうか。こうした療養目的で温泉に入る場合は、たとえぬる目のお湯であっても「長湯は禁物」であると、温泉学者であり、医学博士でもある松田忠徳氏はいいます。松田氏の実際の経験と調査から、「湯治」の効果と賢い入浴法についてみていきましょう。
成分が薄くても、なぜ“効く”のか?
「俵山のような単純温泉がなぜ効くのか?」を、科学的に確認する方法はないものか? 入浴モニターによる実証実験で、俵山という単純温泉の効き目を実証できないものか? 湯治を終えて以来、この2つの課題をぜひともクリアしたいと考えました。
「成分が薄くても効くのはなぜなのか?」この疑問を確認するために、「酸化還元電位(ORP)」による評価法を導入したのはいうまでもありません。
温泉の本質を化学的に一言でいうと、その還元作用にあります。「町の湯」では、湯口から浴槽(一号湯)に注がれた湯はあふれて隣の浴槽(二号湯)に流れ出す仕組みになっています。一号湯は源泉かけ流しで、二号湯は濾過循環されており、湯温は下がります。
一号湯の湯口下の酸化還元電位はマイナス218mV(ミリボルト)、pHは9.06、湯温は39.6度。湯が隣の二号湯の浴槽にあふれ出る直前の湯尻で、酸化還元電位はマイナス206mV、pHは9.03、湯温は39.4度でした。酸化還元電位の値は低いほど、とくにマイナスを示すほど「鮮度の高い」、「活性のある」温泉であると考えられます。
どの位置で入っても“湯力”に変化なし…調査してわかった「俵山温泉」の希少価値
浴槽内の湯の酸化還元電位がマイナスの場合、「還元力に優れた温泉」と考えて良いでしょう。なかでも浴槽のどの位置で入浴しても湯力にほとんど変化のない俵山温泉は、極めて希少価値の高い温泉といえます。
湯口下でも湯があふれ出る湯尻でも、浴槽内ではほとんど差がないからです。ただ、温泉は生命力を有する“生きもの”であるため、酸化還元電位も季節や気象条件によって絶えず変化します。