内閣府「令和4年版高齢社会白書」によると、60代前半では約7割、60代後半では約5割の人が働いていることがわかります。つまり、60代後半でも2人に1人は働いているのです。では、60歳以降の働き方の違いによって、どのくらいの年金額にはどの程度の差が生まれるのでしょうか? 本記事ではSさんの事例とともに、定年退職の年齢による年金格差について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。
「退職金と貯金で2,500万円だし、もう辞めよう」60歳で現役引退。月収50万円だった元サラリーマンのおひとり様、気楽に晩酌生活を送るも…“5年後の年金額”を知って大後悔【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

60歳時の年金金額

現在、60歳のSさんは、製造業に勤めていた会社員です。この会社では、60歳が定年、65歳まで、本人が希望すれば再雇用で65歳まで働くことができます。しかしながら、満員電車で通勤していたSさんは、疲れがとれずに「もう、会社に行きたくない。退職金も貯金もあるし、辞めてしまおう」と60歳で現役引退(定年退職)しました。

 

Sさんは60歳退職直前の月収は50万円、65歳の年金受給までに5年あります。退職金は1,000万円、貯金は1,500万円となっています。

 

まずは、Sさんの年金額をみてみましょう。Sさんのねんきん定期便では、65歳から受け取る年金は次のとおりです。

 

老齢基礎年金:79万5,000円×444月÷480月=73万5,375円(2023年度額)
老齢厚生年金:平均標準報酬41万円、444月
             41万円×5.481/1,000×444月=99万7,761円
差額加算(経過的加算):1,657円×1,000×444月=73万5,708円
        73万5,708円−73万5,375円=333円

合計173万3,469円(月額14万4,456円)

 

同年代の年金の平均手取り額はいくらなのでしょうか。「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況の年齢別老齢年金受給権者数及び平均年金月額」によると、厚生年金保険(第1号) 老齢年金受給権者状況の推移(男子)の65歳以上の男性の平均年金月額は16万7,388円(老齢基礎年金を含む)です。これをみると、Sさんの年金額は同年代と比較し、やや少ない傾向にあることがわかります。

65歳までに1,500万円減少し、80歳で老後破産

Sさんは、退職金と貯蓄が2,500万円あったことから、1人だったら気楽に生活できるだろうと安易に考えていました。Sさんは料理が苦手。ずっと独身で外食かスーパーで総菜を買う生活が主で、近所の馴染みの居酒屋で晩酌する生活を送っていました。

 

家計調査報告家計収支編2022年(令和4年)平均結果の概要の65歳以上の単身無職世帯(高齢単身無職世帯)の家計収支 (2022年)では、消費支出は14万3,139円です。

 

現役時代の月々の生活費は、食費(外食費含む)、住居費、光熱水費等、支出総額は毎月約24万円。主な内訳では食費(外食・呑み代含む)が8万円と多く、家賃が6万5,000円と管理費1万円、その他(光熱水費・日用品費・娯楽費等)で約8万円でした。

 

さらにSさんは、家にこもりがちにならないよう、趣味でこれからゴルフを始めようかと、ゴルフ場に行く車の購入も検討しています。おひとり様のため、小さな車を検討していますが、車両購入費用(諸経費込)で約250万円。いままでになかった駐車場代やガソリン代等が新たな経費として負担することになります。

 

退職後は65歳まで収入がないため、家事をするなど、なるべく支出を抑えることが必要です。また、65歳から年金を受給しても現役時代と同じ支出だと約10万円の赤字となります。

 

節約しても無職・無収入のSさんは65歳までは貯蓄が減額していきます。仮に1ヵ月の支出を20万円まで切り詰めるとします。20万円×60月(5年)=1,200万円となり、車の購入費用と維持費等を含めて、65歳までに貯蓄残額は1,000万円です。

 

さらに、Sさんは65歳から年金を受給し、不足分を貯蓄で賄ったとしても、同じ生活レベルでいると不足額が毎月5万6,000円(20万円−14.4万円)生じ、約15年で破産の危機が訪れます。

 

厚生労働省の「簡易生命表(令和4年)」によると、2022(令和4)年の日本人男性の平均寿命は81.05歳です。このままだとSさんは平均寿命前に老後破産を迎えることに。

 

「気楽な老後のはずが……」