身近な人ががんに罹患するなど、がんの恐ろしさを目の当たりにするようなきっかけがあると、自分のがんへの備えが気になり、保険加入を検討する人は少なくないでしょう。しかし、がんに備えるための保険を選ぶ際、ネット上の膨大な情報から正しいものにたどり着くことは、決して簡単なことではないと知っておく必要があります。本記事では、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が、横山ちはるさん(仮名・42歳)の事例とともに、がんに備える保険選びの注意点について解説します。
保険会社「お支払いの対象外です」…年収550万円の42歳おひとりさま、乳がんに手厚い〈女性保険〉に加入も…がん再発で「まさか、給付金を受け取れないなんて!」その理由【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

給付金の支払いで、治療費から20万円のおつりが来る結果に

横山さんは8日間入院し、手術は無事に終わり退院しました。かかった入院費用は医療費部分が約8万円(高額療養費申請後)、そのほか入院中の諸費用として、食事代、雑費、そして1日1万円の個室代で、約9万円、合わせて17万円程度でした。いったん費用は退院時に自分の財布から支払ったのですが、加入していた女性保険から、なんと36万円の支払いがあり20万円近くおつりがくる結果となりました。

 

手術は無事に終わって仕事への復帰も叶い、入院手術でお金はむしろ増えました。横山さんは保険に加入することを勧めてくれた先輩に感謝するとともに、場合によってがんの再発・転移などで再び治療費がかかるかもしれないが、この保険があればお金の面は安心だという思いになりました。

 

ただ入院中に横山さんは、がんで入院したにもかかわらず入院日数がたったの8日間だけということに大きな違和感を覚えました。『がん治療=長期入院』というイメージを持っていたためです。しかしのちに、その違和感は的中することになるのです。

がんの転移後の治療でまさかの支払対象外

乳がんの入院・手術以降、仕事にも復帰でき、もとどおりの生活に戻ることができた横山さん。入院中に感じた違和感も、仕事に追われる毎日に戻っていつの間にか消えてしまいました。

 

ところが2年ほど前の定期検査において、がんが肺に転移していることが発覚します。今回は手術ができない状態ということで、主治医からは『抗がん剤治療』という薬での治療が提案されました。特にがん治療の知識はなく、信頼している主治医の勧めに従って治療を始めたのですが、以前感じた違和感の理由をはっきりと知ることになりました。

 

横山さんが受ける『抗がん剤治療』ですが、入院は不要で定期的な通院で治療ができてしまうそうです。長期入院で仕事を長く休むことになり、毎月の給料などへの影響が出ることを恐れていた横山さんですが、治療の日は1日休みを取るだけで済むことに安堵しました。

 

ところが治療を開始した横山さんは別のところで衝撃を受けることになります。それは開始した抗がん剤治療においては、加入している保険からはお金が一切払われないということです。1度目の抗がん剤治療を終えたあと、保険会社のコールセンターに請求しようと問い合わせてその事実が発覚しました。その際にあらためて横山さんの保障内容をオペレーターに確認したのですが、「今回の請求に関してはお支払いの対象外です」と告げられます。オペレーターの話を整理すると、

 

■けが・病気で入院:入院1日当たり1万円お支払い
■けが・病気で手術:手術1回あたり10万円お支払い
■女性特有の病気で入院:入院1日あたり1万円上乗せしてお支払い
■女性特有の病気で手術:手術1回あたり10万円上乗せしてお支払い

 

というもので、端的にいうと横山さんが加入中の保険の保障対象は、『入院・手術』のみ、通院治療は支払対象となっていません。

 

「またがんになったのに、まさか、給付金を受け取れないなんて!」大きな後悔が残る横山さんでした。

 

横山さんは保険選択の際、もともと求めていた『乳がんに備えたい』という思いに対し、選択した保険種類が不適切であったという点が問題だった可能性があります。こうした結果を招かないために、次頁でその問題点について確認したいと思います。