老人ホームの入居に際し、やっぱり一番の懸念といえばその費用。年金や貯蓄だけではとても……そんなときは「自宅を売却」というのも有効な選択肢です。しかし「自宅を売って老人ホームに入所」には大きなリスクも。みていきましょう。
年金月13万円・80代の高齢女性「思い残すことはない」と高級老人ホーム入居も…3ヵ月後の悲劇に涙「なんて馬鹿なことを」

80代に高齢女性「自宅売却」のお金で「ちょっといい老人ホームに入所」の顛末

80代、元会社員だった夫を亡くした妻の場合を考えてみましょう。

 

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、遺族厚生年金の平均月額は8万1,540円。そこに自身の分も合わせると、専業主婦であれば月14.7万円、手取りで月13万円程度の年金を手にするイメージ。平均的な有料老人ホームであれば、月5万円ほどの不足分を貯蓄の取崩しで対応する計算です。1年で60万円、5年で300万円、10年で600万円を取り崩すことになります。

 

――老人ホームの費用は自宅の売却益で

 

そう考えている人もいるでしょう。一般社団法人あんしん解体業者認定協会が男女500人に行った『実家の空き家問題に関する意識調査』によると、「実家が空き家になる可能性がある」と回答したのは65.2%。その理由のトップは「子ども全員が実家を離れている」で56.7%。「家を継ぐ気のある人がいない」12.8%、「自分の世代で終わりだから」10.7%と続きます。

 

どのような理由であれ、自宅をそのままにしていても誰も住まないし、相続が発生したら残された家族は面倒なことになりそう……それであれば、老人ホームへの入居のタイミングで自宅を売却して、そのお金で老人ホームに入居というのもひとつの手かもしれません。いまは不動産価格も上昇中。「思いのほか高く売れた!」ということもあるでしょう。

 

先ほどの年金月13万円の80代の女性。「自宅が高く売れたから、どうせならちょっといいホームにしようかしら」と老人ホームのグレードを上げて検討……そんな展開に。昨今の老人ホームのなかには、カラオケルームを完備していたり、プールやジム、温泉を完備していたり、食事も有名シェフが監修をしていたりと、さまざま。ホテルライクな毎日を送れるようなホームも珍しくはありません。

 

――よし、人生最後の贅沢に

 

自宅を売却し、豪華な高級老人ホームに入居した80代女性。意気揚々と高級老人ホームに入所し、最初は毎日がハッピーだったかもしれませんが、段々と違和感を覚えるようになって……

 

――ほかの入居者と話が合わないわ。みんな“格”が違うというか……

――豪華な食事にも飽きちゃった。たまにはお茶漬けくらいでいいのに

 

老人ホーム選びでは、このような事態はよく起こりがちです。「やっぱり、このホームは合わないわ」と、クーリングオフ期間に退所を決意。初期償却分は戻ってこなくても、ほかは全額戻ってきて、めでたしめでたし……となればいいのですが、自宅を売却してしまった場合は退所しても戻るところがなく、そのままクーリングオフ期間が過ぎてしまう可能性が高いでしょう。次の老人ホームが決まるまでは、我慢の生活が続きます。

 

――自宅を売っちゃうなんて……なんて馬鹿なことをしてしまったのかしら(涙)

 

一度入居した老人ホームを退所するなんて、思ってもみないでしょう。しかし、そのような人は意外にも多いようです。株式会社Speee/ケアスル 介護が行った調査では、「現在入居している施設は何施設目ですか?」の問いに対して「1施設目」は61.6%。つまり4割の人は複数の老人ホームを渡り歩いているということになります。

 

退所したくても戻るところがない。そんな悲劇に陥らないためにも、自宅を売却するにしても、老人ホームに入所後、そこでの生活にも慣れ、「ずっとここにいてもいいかな」と思えるようになってからがベストだといえるでしょう。

 

[参考資料]

総務省『高齢者施設入所者の家計の把握』

厚生労働省『サービス付き高齢者向け住宅等の月額利用料金』

厚生労働省『令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況』

一般社団法人あんしん解体業者認定協会『実家の空き家問題に関する意識調査』

株式会社Speee/ケアスル 介護『介護施設の転居に関わるアンケート調査』