このペースでは90歳で資産が枯渇…求められるのは生活レベルの見直し
厚生労働省の調査によると、現在60歳女性の平均余命は29.28歳(出典:『主な年齢の平均余命』)。これを踏まえてAさんのライフプランを作成してみます。
総務省統計局の『家計調査報告』のデータによると、令和4年における単身無職世帯の消費支出の平均額は14万2,194円です。このデータを参考に、加入している生命保険を解約しながら生活費に充てるようシュミレーションすると、平均余命ぎりぎりの90歳で不動産以外の資産が尽きる計算になります。
将来的に自宅の売却を考えることも可能ですが、Aさんは、自宅はできれば遺産として子どもたちに残してあげたいと考えているとのことでした。また、今後万が一認知症などによってAさんの意思能力がなくなってしまった場合は、簡単に自宅を売却できなくなってしまうリスクも考えられます。
それ以外にも、今後のインフレの加速具合や介護費用の問題などを考えると、もう少し余裕のある資金計画を立てたいところ。そこで、生活レベルを平均値程度に落とすことと、NISAを利用して積立投資をしながら資産を取り崩していく提案をしました。
運用しながら取り崩すことで「資産寿命」を延長
上にみた統計の通り、60歳・女性の平均余命は約30年ですから、Aさんはいまから投資を始めても、長期・積立・分散でリスクを抑えた運用が可能です。
たとえば、毎月10万円を年利3%の複利で15年間積み立てると、15年後の運用結果は約2,460万円となります(手数料、税金などは考慮せず)。さらに、その資金を75歳から90歳まで年利3%で運用しながら取り崩すと、毎月約16万円を引き出せることになり、その結果90歳の時点では、投資をしない場合と比べて資産額に約1,000万円もの差がつく計算になります[図表1]。
もちろん、投資にはリスクがあるため必ずしもシュミレーションの通りになるとは限りません。そのため、今後の資産管理も継続的にサポートすることを併せて提案すると、Aさんも安心した様子でした。
家計については平時から家族間で情報共有を
Aさんは、夫の収入が十分にあった環境に加え、実家も裕福でお金に不自由したことがなかったことから、これまでお金のことを考えたことがありませんでした。そして、かつて「当たり前」だった夫の収入がなくなって初めて、お金は計画的に使う必要があることに気がついたのです。
今回のケースは、極端な例かもしれません。しかしながら、配偶者が家計管理を行っており、自身は家計にノータッチだったために、不測の事態が起こったとき、何もわからずに困っているという人は意外と少なくありません。夫婦どちらかが亡くなったときだけでなく、認知症などで意思能力がなくなってしまうといったリスクも考えられますから、家計のことは平時から夫婦間や親子間などで共有しておくことが重要です。