高齢化が進んだことで問題となっているのが、「介護」の負担です。自分の親を心配する声も多く、また同時に、同居する親の世話などで「介護疲れ」となるという話を耳にする機会も多いのではないでしょうか。本記事では、山本さん(仮名)の事例とともに介護と老後資金の備え方について、FP事務所MoneySmith代表の吉野裕一氏が解説します。
「それじゃあ、行くね」寂し気な背中を見送った50代娘「いま、後悔しかありません」…年金9万円、70代母が〈サ高住〉入居で陥ったまさかの事態【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

入所したら安心と思っていたが…

母親の財産は、父親が他界したときの相続も入っていましたが、相続財産は多くなく、母親の貯えも少なかったため、貯蓄で400万円程度です。

 

入所一時金30万円を払い、月額18万円でしたが、母親の年金と貯蓄を取り崩していくことにしました。母の貯蓄が尽きたあとは、山本さんの娘も大学を卒業しているので、自分が負担しようと考えていました。しかし、この負担はいつまで続くのかと心配があります。

 

母親の年金は老齢基礎年金が5万円程度で、遺族厚生年金が4万円でした。若いうちは、パートで働きに出ていましたが、父親の扶養控除内で働いていたので、母親の老齢厚生年金はほとんどなく、年金額の合計は月10万円にも満たないものでした。

 

母親が入所後は、仕事が忙しくなってしまい、面会には月に1度行けるといいという状況が続きました。

 

1年が経ったころから、面会に行っても母親との会話がかみ合わないと感じることが増え、施設の職員からも認知症の疑いを指摘されたので、病院で診てもらうと案の定、「認知症」と診断されました。

 

入所前に同年代の人が多いので、話し相手や趣味をやる楽しみが増えると思っていました。しかし、家にいたときから、座りっぱなしだったり寝ていたりということが多かった母親は、あまり周りの人と交流を持つことは少なかったようで、認知症が進行したのかもしれません。

 

「こんなことなら、なんとか時間の合間を縫って母に会いにくればよかった。そもそもお金の不安もあったし、やっぱり家で一緒に暮らすべきだったのかもしれません。いまは、いろんな面で後悔しかないです」

老後の準備は現役時代の早いうちから

以前に「老後2,000万円問題」が金融庁の金融審議会の報告書で話題となりましたが、別の角度から、認知症の深刻化も取り上げられていました。

 

今回の山本さんのケースでは、老後の資金が不足することや認知症という問題が両方降りかかってくるという結果になってしまいました。認知症は早期発見早期治療で、改善をすることや進行を遅らせることもできるので、気になるようであれば、早めに診察を受けてみるのもいいでしょう。

 

また山本さんは、離婚をして養育費は受け取っていたようですが、子どもの教育費で自分の収入と併せても手元にほとんど残らないなかで、母親の世話も重なり大変苦労したようです。

 

50代以上の方が筆者のもとへ相談に来られると、子どもの教育費にお金がかかってしまい、自分たちの老後の資金の準備ができていないという相談が多くなっています。

 

さらに、たまに実家に行っては親の世話するなどして、自分たちの生活以外にも支出が増えるなどの問題も増えているようです。

 

最近では介護問題への対策として、介護保険や認知症保険などの保険商品が増えているように思います。大きな資金が無いようであれば、保険という手段を活用することも検討してみましょう。

 

夫の扶養控除内で働く妻も多くいますが、男性より女性のほうが長生きをする傾向にあり、女性の公的年金が少ないのも今後の課題のひとつかもしれません。

 

時間などにゆとりがあって、働こうと思えば働けるにも関わらず、扶養控除内を意識して、働く時間などを制限するよりも、将来の人生設計を考えたうえで、収入を増やしておくのも人生100年時代といわれる長生きリスクを安心なものにする方法かもしれません。

 

貯蓄好きな日本と揶揄された時代もありましたが、NISAやiDeCoが周知されるなかで、投資についても始めてみようと思う人も増えているように感じます。投資は長い時間をかけて、資産を増やしていくものですが、大切なのは物価上昇以上の利回りを意識することです。

 

これまで資産形成はほぼ貯金という人の場合、物価上昇よりも利回りが低くなり、見た目である額面はわずかでも増えていますが、実際に出ていくお金のことを考えると、実は資産が目減りしているということが往々にあります。

 

老後はまだ先の話という世代でも、老後に向けた準備は意識しておきましょう。

 

 

吉野 裕一

FP事務所MoneySmith

代表