(※写真はイメージです/PIXTA)

診療所を開設するにあたっては、行政へのさまざまな届け出書の提出が必要です。どのようなものが必要となるのか、その種類と内容について、法的論拠をもとに2回に分けて解説します。1回目となる今回は、「①診療所の開設届」「②保険医療機関指定申請書」「③エックス線装置備付届」について取り上げます。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

①診療所の開設届…これがないと始まらない!

まず必要となるのが、診療所の開設届です。医療法8条において、「臨床研修等修了医師……が診療所……を開設したときは、開設後10日以内に、診療所……の所在地の都道府県知事に届け出なければならない。」とされています。法律の規定上は、開設後10日以内とされていますが、実務上は、事前に行政の窓口での相談をした上で、開設前(実際の診療を開始する前)に届出を行うのが通常です。そして、開設の届出をした後に、②の保険医療機関指定の申請を行うという流れになるのが通常ですから、事前の準備をしっかりとしておく必要があります。

 

また、医療法施行規則4条において、クリニックの名称、開設の場所、建物の構造概要及び平面図その他届け出なければならない事項を定めています。

 

なお、診療所については、病院と異なり、開設の許可を要せず、届出で足りることになります。これに違反した場合には、20万円以下の罰金に処せられる(医療法89条1号)と規定されておりますので、留意が必要です。

 

なお、「届出」と「許可」の違いについて触れておきたいと思います。「許可」とは、法令または行政行為によって課されている一般的禁止を特定の場合に解除する行為のことをいい、行政庁による禁止解除のための審査があります。一方で「届出」は、「一定の事柄を公の機関に知らせることをいう。」(法令用語辞典<第10次改訂版>611頁)とされていますので、行政の審査は発生しません。そして、診療所の開設にあたっては、行政庁の審査はされないこと、すなわち、「届出」であることが法律によって明確になっています。

 

◆クリニックの名称について

クリニック(診療所)の名称については、法律で、「診療所は、これに病院、病院分院、産院その他病院に紛らわしい名称を付けてはならない。」(医療法3条2項)とされていますので留意が必要です。

 

◆各自治体によっては「独自ルール」を設けているところも

それ以外にも、各自治体によって、独自のルールを設けて指導しているところがあります。例えば、大阪市がウエブページで公表しているところによれば、市民や患者に対して医療機関であることが容易に認識できるよう、原則として診療所名称には、「開設者の姓を冠し、次の範囲内の名称であること」とし、次の範囲とは、「1.診療所 2.クリニック 3.医院 4.診療科目」とされ、この内容を届出時等に診療所に対して指導しています。

 

ほかの自治体でも同じようなルールを設けているところはありますので、事前に十分に調査しておく必要があります。

 

◆目的によっては、クリニック名に自身の氏名を使えない場合もある

加えて、名称にあたっては、自己の氏名であっても、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他不正の目的をいう)で使用する場合には、不正競争防止法2条1項1号に違反することになるため、留意が必要です。

 

実際に、診療所の名称が不正の目的で使用した場合に該当するか否かが争われたものがあります(大坂地判平成21年7月23日。この事例は、それほど遠く離れていない場所に開設した診療所の名称が、既に開設している診療所の名称に類似していたものの、当該診療所を開設する医師の名字を用いた名称であったことから、不正の目的はないと判断されました。)

②保険医療機関指定申請書

保険診療を行うにあたっては、保険医療機関指定の申請が必要となります。厚生労働大臣の指定を受けた診療所は、保険医療機関となりますが、当該指定は、政令で定めるところにより、診療所の開設の申請により行われます(健康保険法65条1項)。申請は、管轄の厚生局に対して行います。

 

なお、厚生労働大臣の指定は、病床がない診療所については健康保険法65条3項に指定の要件が定められています。

 

第3項については、「厚生労働大臣は、第一項の申請があった場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、第六十三条第三項第一号の指定をしないことができる。」として欠格事由があるときは指定しないとされています。なお、欠格事由としては、保険医療機関等の指定を取り消されてから5年以内の者、保険給付に関して国の指導を重ねて受けている者、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終えていない者、保健医療関係法令により罰金刑に処せられ、その執行を終えていない者、診療所として著しく不適当と認められるものであるときなどがこれに当たるとされています。

③エックス線装置備付届…診療所所在地の都道府県知事に届け出を

診療所にエックス線装置を備えた場合には、その届け出をする必要があります。医療法15条3項に、「……診療所の管理者は、……診療所に診療の用に供するエックス線装置を備えたときその他厚生労働省令で定める場合においては、厚生労働省令の定めるところにより、……診療所所在地の都道府県知事に届け出なければならない。」と規定があります。

 

そして、医療法施行規則24条の2で、「……診療所に診療の用に供するエックス線装置……を備えたときの法十五条第三項の規定による届出は、十日以内に、次に掲げる事項を記載した届出書を提出することによって行うものとする。」とされています。なお、本条は訓示規定であるとされており、本条違反について罰則は設けられていません。

 

また、エックス線診療室の構造設備の基準(医療法施行規則30条の4)なども定められています。例えば、原則として画壁等の外側における実効線量を1mSv/週以下とする、エックス線診療室の室内には、原則的にエックス線装置を操作する場所を設けない、エックス線診療室である旨を示す標識を付するなどといった基準があり、これに反しないように留意する必要があります。

 

後編に続く

 

 

山口 明
日本橋中央法律事務所  弁護士