医療機器の保守契約は「命を守るため」に不可欠なもの
医療機関におけるさまざまな医療機器は、患者様の生命を守るため、保守契約が義務づけられています。医療機器の使用について、定期的な保守点検を行うことが医薬品医療機器等法により義務となっているのです。
医療機器では、税法上の耐用年数は4年~10年とされており、さまざまな医療機器はこの頻度でバージョンアップすることが多く、「標準的な使用」であれば、医療機器メーカーが定める耐用年数は6~8年であることが多いといえます。
「標準的な使用」とは、天災や故意を除き、消耗品の交換や、年に最低1回のメーカー・外注企業による定期的なメンテナンスという意味合いが含まれています。
医療機器が正常に作動しないことで、医療行為が長期間できなければ、医療安全の観点や医療経営の観点から信用が揺らぎます。そのため、適切な医療機器の保守点検は必須なのです。
保守点検の一般的なペースとは?
保守点検は、まず機器購入時に1回実施され、以降は基本的に、年1回の自動更新により実施されます。
事務手続は、契約開始時に1回行うことで以降は簡略化され、支出も定額化されます。ランニングコストの予算化・定額化は、経営的なメリットだといえますが、保守契約にはそれ以上のメリットがあります。
まず、メーカーが委託している専門技術者によるサポートが優先的に受けられるという点です。医療機器も家電製品と同様、頻回の使用によってセキュリティ上の問題や故障が発覚することが多くあります。専門技術者のサポートの手を借り、トラブルから迅速に製品機能を復旧できれば、クリニックの診療活動への影響も最小限に抑えられます。
また、医療安全の観点からは、年に1回以上定期的なメンテナンス・アップデートを行うことも重要ですが、契約内容には、定期的なメンテナンスやアップデートが含まれます。
保守契約に基づく定期点検によって、消耗品の交換を実施することで機器トラブルを予防できたなら、医療機器の故障がもたらす経営悪化も予防することができます。
健康診断や人間ドックと同様、医療機器も、突発的な不具合を低減するには、早期発見・早期対応が重要なのです。
一方で、保守契約のデメリットもあります。医療機器以外の機械やサービスと同様、特定の取引先との依存度が高くなる点、そして、定期的な費用や追加費用を要する点、保守契約に基づくサービスの範囲を外れた修理で高額な追加費用が発生する点などです。
もっとも、これらのコスト負担は保守契約のデメリットではありますが、医療機器は人間の傷病時や健康診断に利用するものであることから、最良の状態をキープする必要があります。
目先の節約に走るあまり保守点検を怠れば、最悪、民事・刑事・行政責任を負う大きなトラブルになるリスクもあります。そんな事態に陥らないためにも、必要経費と割り切って負担をすることが必要です。
保守契約の内容のチェックポイント
保守契約を締結する際は、「定期点検の頻度」「消耗品の交換の有無」は当然のこと、契約に含まれるサービスや、追加料金となるサービスについても詳細に確認する必要があります。
とくに保守契約に基づくサービスは、医療機関と委託先とで争点となるケースが多くあるため注意が必要です。「医療機関は保守契約の範囲内と考えていたのに、委託先からは高額な別料金を請求された」というトラブルに発展するケースは珍しくありません。
このため、基本料金に加え、付加料金についてはある程度は支払う心構えをしたほうがよいと思います。
点検の頻度についてですが、年に1~2回、点検シートに基づく作業・調整・清掃・総合動作確認を実施する方法と、定期契約を結ばず、その都度、点検の依頼をするスポット点検という方法の2つの選択肢があります。
多くの医療機関は、年に1回の定期契約を選択しています。年に1回以上の点検を実施している場合、劣化した部品を無償交換・無償修理対応、あるいは代替機による対応を行うサービスをしている企業が一般的だから、というのが理由だと思われます。
また、定期契約の場合は、付随するハードウェア・ソフトウェアのアップデートや、トラブル時の早期オンコール対応も実施することも多いようです。
ちなみに筆者の場合、クリニックのX線CR機器読み取り装置の年1回の点検契約を、月1万5,000円で結んでおり、購入したメーカーともよい関係を築いていました。4年目に大掛かりな機器トラブルがあったとき、保守契約では対象外の不具合だったため、修理の見積もりとして60万円(税別)の請求となったのですが、メーカー側が機転を利かせてくれ、保守契約を6ヵ月遡り、月々の支払いを3,000円分増額する契約に変更したことで、60万円の支払いが無料となりました。
筆者のようなケースもあることから、メーカーの管理者やスタッフの顔が見える関係を構築し続けることは重要です。
保守契約を「中途解約」「一時停止」する事態も想定しておく
事情によっては、不測の事態でクリニックが休業・閉院する場合もあるでしょう。その場合、保守契約が中途解約・一時停止する可能性があります。
保守契約は永続しないため、どこかのタイミングで終了となります。期間満了時に契約更新をしないで打ち切ることが原則ではありますが、中途解約の条件(通知の時期、損害賠償、報酬の取り扱いなど)も明らかにしておくことが重要です。
契約内容の詳細に解釈の余地があると、クリニックと委託先それぞれが、当事者にとって都合のよい主張を行い、深刻な対立が生じてしまいます。最終的にはそれが、患者様や医師の家族への迷惑となる恐れがあります。
そのような事態を避けるためにも、保守契約の初回締結時には「自分ごと」として、不明確な契約条項がないか、契約書の詳細をチェックし、疑問点は修正を求めるスタンスで対応しましょう。
なお、これまで聞いたことはありませんが、メーカー側の倒産や不祥事で受注が停止になるリスクも念頭に置き、万一保守点検が実施できなくなる場合も想定して対策を立てるぐらいの周到さが、クリニックの経営者には重要だといえます。
武井 智昭
株式会社TTコンサルティング 医師