(※写真はイメージです/PIXTA)

多額の資金が必要となるクリニック開業には、自己資金をカバーするための融資が欠かせません。その融資を受ける際に求められるのが「事業計画書」です。事業計画書には、診療地域の分析や収支計画、返済計画なども含まれます。ここでは、融資が受けやすくなる事業計画書の作成ポイントに着目し、主な資金調達先や融資を受ける際の注意点についても触れていきます。本連載は、コスモス薬品Webサイトからの転載記事です。

融資を受けやすくするための事業計画書とは

クリニックの開業に必要な融資を受けるためには、説得力のある事業計画書を作成することが不可欠です。

 

事業計画書は、開業するクリニックのビジョンや収支計画を明確に示すものであり、貸し手にとって将来のリターンを評価する重要な情報源となります。

 

以下では、融資が受けやすくなる事業計画書のポイントについて、さまざまな視点から解説します。

 

開業コンセプト・診療理念

開業のコンセプトや診療理念は、事業に対する強い意志の表れです。

 

なぜこの場所でクリニックを開業したいのか、自身の診療にどのような思いがあるのかを明確に記しましょう。

 

例えば、高齢者が多い地域だから、オフィス街で働く人の健康を守りたいから、駅近で需要が増える見込みがあるからなど、エリアの特性や不足している医療に焦点を当てることで差別化を図ることができます。

 

ポイントは、地域のニーズに合致した医療サービスや、独自の医療価値を提供できるかどうかです。

 

資金の貸し手は、クリニックが地域社会においてどのような価値を提供し、どこに優位性があるのかを重視します。

 

初期費用の見積もり

開業に必要な初期費用を具体的に洗い出しましょう。

 

物件の購入費または賃借料、内装工事費、医療機器・設備の導入費、人材採用費、広告宣伝費、そして当面の運転資金などが含まれます。

 

各項目の費用を詳細に予測し、見積もりを正確に行うことが重要です。

 

例えば、物件は地域の需要と予算に応じた選択を示し、医療機器や設備はその必要性とメンテナンスを明確にすることが融資審査を通りやすくします。

 

診療科によって初期費用は異なりますが、数千万単位のお金が動くことは明らかです。

 

だからこそ、数十万、数万の細かな変動にもシビアな目を向ける必要があります。

 

支出の見積もり

事業は利益ありきではなく、何にどのくらいの費用がかかるのかを考えることが先決です。

 

支出は固定費と変動費に分けて見積もりましょう。

 

固定費は、人件費やリース料、水道光熱費、保険料などのように患者数や売上に関わらず支出が一定のものです。

 

変動費は、医薬品費や診療材料費、検査委託費、残業手当などのように、患者数や売上に応じて費用が増減するものです。

 

また、手元に残したいお金や院長の生活費も支出として見積もることが肝心です。

 

必要な出費にしっかり向き合うことで、事業の持続可能性やコスト管理能力をアピールできます。

 

収入の見積もり

収入は、算出した支出をまかなうためのもの、という考え方が事業の初期段階としては健全です。

 

クリニックを安定的に運営していくためにも、収入を具体的に見積もりましょう。

 

一般的な計算式として、1日の来院患者数、1人あたりの医療費(診療報酬)、月間診療日数の3つを掛け合わせることで、月単位の医業収入が見込めます。

 

これについては、開業コンサルタントなどの専門家に診療圏調査を依頼すると、よりリアルな見積もり出しも可能です。

 

ここで大事なのは、収入が支出を上回っていることです。

 

貸し手に収益性を評価してもらうためには、黒字化した収支計画を作成しなければなりません。

 

資金繰り表の作成

初期費用と収支の見積もりが整ったら、資金繰り表を作成しましょう。

 

資金繰り表とは、開業後数年間のお金の流れを可視化し、資金不足になりそうなタイミングをあらかじめ把握するための表です。

 

融資を受ける際には、なぜこのタイミングでこの金額の融資が必要なのかを、納得できるかたちで説明しなくてはなりません。

 

適切な資金調達のタイミングや返済計画を具体的に示すことは、融資を受けやすくするポイントです。

 

資金繰り表は、見積もりの精度をチェックする材料にもなり、運転資金の借入額を見通す上でも役立ちます。

 

上記を整理すると、資金の貸し手は事業計画書を評価する際に以下の点を重視します。

 

・開業への熱意、明確な診療理念

・調査データの精度、信頼度

・地域ニーズへの視点、競合との差別化

・収支計画の具体性、事業の実現可能性

・リスクマネジメントへの取り組み

・記載情報の正確性、リアリティ

・開業後の安定と成長、持続可能性

 

これらのポイントを事業計画書に盛り込み、信頼性の高い計画を提示することで、融資審査が通りやすくなるでしょう。

クリニック開業をサポートする融資制度・資金調達先

では、実際にどのような融資制度や資金調達先があるのでしょうか。

 

資金を得る方法は多岐にわたり、それぞれ条件や特性が異なります。

 

ここでは、クリニック開業に必要な融資を受けるための主な手段を紹介します。

 

日本政策金融公庫

日本政策金融公庫は、中小企業や個人事業主向けに低金利で融資を提供する政府系金融機関です。

 

クリニック開業資金を調達する選択肢として利用されるケースは少なくありません。

 

さまざまな融資プランが設けられており、プランによって返済期間や金利、保証要件などの条件が異なります。

 

無担保で融資を受けることも可能ですが、審査は甘くはなく、事業計画の健全性が求められます。

 

医師信用組合の融資制度

クリニックの開業にあたっては、地域の医師信用組合による融資制度を利用することも可能です。

 

新規開業ローン、医師応援ローンなど、自治体や組合によってさまざまなローン制度が設けられています。

 

資金の用途に幅広い柔軟性がある一方、各組合で融資条件が異なるため、詳細を確認する必要があります。

 

民間の金融機関

銀行や信用金庫などの金融機関では、開業医を対象とした融資プランが狙い目です。

 

開業資金だけでなく運転資金の融資に対応している金融機関もあり、民間ならではの柔軟性に期待できます。

 

ただし、審査のハードルは高く、事業計画書の作成に加えて、信頼を得るための交渉に力を入れることも必要です。

 

リース会社

医療機器や設備のリース会社による融資も、開業資金を調達する手段の一つです。

 

融資の期間や条件はリース会社によって異なりますが、審査が比較的スムーズで通りやすいことが特徴です。

 

ただし、他の調達先と比べて金利が高くなる傾向にあるため、利用の際は事前に確認したほうが良いでしょう。

 

補助金・助成金

国や地方自治体から支給される補助金もしくは助成金を、開業資金の一部として活用することもできます。

 

補助金や助成金は基本的に返済義務のないお金ですが、申請にあたっては一定の条件を満たさなければなりません。

 

開業資金の返済リスクを少しでも抑えられるので、他の融資手段と組み合わせて利用することが賢明です。

融資を受ける際に心がけておきたい注意点

クリニック開業で融資を受ける際には、注意すべきポイントがいくつかあります。

 

まず、事業計画書や面談に基づいた審査が行われますが、審査に通過しても希望に見合った資金を借りることができるとは限りません。

 

そのため、提示する開業資金はあらかじめ多めに見積もり、スタートラインに余裕を持たせることが肝要です。

 

融資を受ける際にはスケジュールにも注意が必要です。

 

融資を申し込むタイミングは物件の契約締結後が一般的ですが、状況によっては物件探しに時間がかかったり、内装工事で多額の費用が発生したりする可能性があります。

 

当初の資金繰りを滞りなく進めるためにも、ゆとりのあるスケジュールを組むように心がけましょう。

 

気をつけておきたいのは、開業資金として融資を受けたお金は開業以外の目的では使用できない点です。

 

開業のためではなく他の用途で使った場合、返済を求められる可能性があります。

 

また、開業後に資金不足や経営悪化に陥ったとしても、その時点で融資を受けるのは容易ではありません。

 

融資は開業時に受けるものと認識し、計画的な資金調達を目指しましょう。

 

融資を受ける借入先の選択にあたっては、それぞれの融資条件を調べることが大切です。

 

借入返済期間や金利の種類(固定・変動)、返済の条件などを十分に把握しておきましょう。

 

最終的には、融資を受けやすくする事業計画書と正確な情報収集が、融資獲得のポイントとなります。

 

 

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