多くの人にとって、老後の主な収入源は「年金」でしょう。一方、自らの収入減となる年金について、制度を正しく把握している人は決して多くないと、FP Office株式会社の梅田雅美FPはいいます。「知らなかった」では済まされない“年金制度の注意点”について、事例を交えてみていきましょう。
加給年金、受け取ると損!?…年金月25万円・65歳と59歳の仲良し夫婦、年金事務所で「加給年金の申請」をキャンセルしたワケ【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

受給開始を先延ばしすると、もらえる金額が増える…年金の「繰下げ受給」

Cさん「次に、『年金の繰下げ受給』についてご説明します。本来の年金受給開始年齢である65歳で年金を受け取らずに、66歳~75歳までのあいだで繰下げて受給した場合、その分増額した年金を受け取ることができます。繰り下げた期間が長いほど増額率が上がり、その率は一生変わりません。

 

増額率(最大84%):0.7%×65歳に達した月から繰下げ申出月の前月までの月数

 

なお、老齢基礎年金と老齢厚生年金は別々に繰下げることができますが、繰下げると加給年金は受け取れないので、どちらかを選択する必要があります。今後の生活費がどのくらい必要かということも考えなくてはいけません」

 

A夫妻はCさんからひととおり説明を受け、「ちょっと2人で相談してみるよ」と帰宅。後日、知人のファイナンシャルプランナーに相談し、年金を繰下げ受給した場合のシミュレーションをしてもらうことにしました。

FPの試算の結果、2人が選んだのは…

シミュレーションの結果、「13年半以上年金を受給し続けるのであれば、繰り下げたほうが多くもらえる」ということがわかりました。

 

FP「Aさんは老齢年金300万円/年なので、加給年金を合わせて339万7,500円/年です。つまり2年繰り下げると679万5,000円の年金収入がなくなるということになります。病気や介護などに備え預貯金を残すことを考えると、2年の繰下げがベストなのではないでしょうか。

 

67歳から年金を受け取ると、増加分は「老齢年金300万円×16.8%=50万4,000円」なので、年間350万4,000円です。

 

この場合、13年半経った80歳のときに、65歳から受け取る年金受給額を上回ります。65歳男性の平均余命は19.44年ですから、Aさんが84歳まで長生きすると仮定し、80歳から84歳までの約4年間はプラスで受け取れるということです。AさんとB子さんご夫妻がどのような生活をしたいのかによって決めるといいでしょう」

 

さらに、「繰下げ受給をする場合、繰下げているあいだは年金収入がなくなるため、生活費が足りるのかどうかを確認することが大切です」とFPは2人にアドバイスしました。

 

これを受け、A夫妻は再び相談。

 

A家は健康で長生きの家系ということもあり、80歳を過ぎてお金が足りないのも辛いだろうと考え、加給年金の受給をキャンセルし、年金を2年繰り下げて受給することにしました。

 

A「これからの2年間は蓄えもしっかりあるし、困ることもないだろう。Cくんにはお礼を言わなきゃなあ」

 

B子「帰りに美味しいものでも食べて、長生きに備えなくっちゃ」

 

そう話しながら、2人は笑顔で年金事務所に向かったのでした。

 

 

梅田 雅美

FP Office株式会社

ファイナンシャルプランナー