投資を毛嫌いするリタイアメント世代は少なくありません。しかし、物価が上昇している昨今、投資は「お金を減らさない」ためのツールのひとつです。円の預金だけを信用していると、老後の資金計画が崩れる可能性も……。本記事では、おひとりさまの佐野さん(仮名・65歳)の事例とともに、老後の資産を守る方法について、ニックFP事務所のCFP山田信彦氏が解説します。
年金月14万円の65歳・頑固なおじいちゃん「この歳で投資はやらん!」と豪語、釣り三昧老後を謳歌も…1年後、友人に笑われながらも新NISAを始めるワケ【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

友人に鼻で笑われつつも、新NISAを始めてみることに

日銀が発表した2023年6月末の家計資産残高は2,115兆円ですが、内訳は現預金が1,117兆円と過半を占めています。そしてその大部分は、一般的には投資に対して「いまさら感」を持つ高齢者層に保有されているといわれています。

 

一方で、日本の国債残高はすでに1,000兆円を超えていまも増え続けていますが、構造的財政赤字の主な要因は、超高齢化社会が加速するなかでの年金、医療、介護等の社会保障関連支出の急拡大にあります。

 

社会保障費支出激増の主要因である高齢者世代が、円安インフレという実質的な資産課税を通じて、自らの世代が保有する眠れる巨額な円建て預貯金で可能な限り支払いを済ませ、次世代へのツケを減らす。このことは、「同世代間受益者負担」、または格差是正の手段としての「間接的相続増税」としても道理にかなっているように、筆者には見えます。

 

資産所得倍増計画の中心的役割を担う新NISAに関して、政府は具体的な総口座数と買付金額倍増目標まで発表しました。これは国家による現役層に向けての、インフレ加速に飲み込まれないために投資を勧める「ノアの方舟への乗船啓蒙運動」にも見受けられます。

 

佐野さんの場合は相談したFPの話に最後は納得して、新NISA非課税口座を利用し2024年1月から2年間、長期分散ベースで合計毎月30万円ずつの世界株式連動などのインデックス投資を始めることにしました。

 

しかし、この話を聞いた佐野さんと同年代の釣り仲間の友人たちは、65歳を過ぎて「投資」を始めようとしている佐野さんを鼻で笑いました。

 

それは佐野さんが始めた投資の本質が、お金を増やすことではなくて、インフレの時代に必要な、お金を減らさないための防衛手段であることを理解できなかったからです。

 

「ノアの箱舟」に乗船するための年齢制限はありません。日本という国の国際的地位の低下により、「金融資産はこれからも日本円現預金だけで十分」という考え方が通用しなくなりつつあることを理解できるのであれば、実は誰でも乗船できます。

 

一方で、箱舟にも乗船できる定員があるかもしれません。それは皆が家計金融資産を一斉に日本円現預金から投資性金融資産や外貨建て資産等に移すことが起こると、金融市場に混乱が生じるからです。

 

ですから、「オレはこの歳で投資なんかやらん。元本保証の円の預貯金だけで十分だ。投資を勧めるやつを信じるな」と踏ん張り続け、日本円の相対的価値下落と運命をともにしてくれる頑な方々への感謝も忘れるべきではないでしょう。

 

 

山田 信彦

ニックFP事務所

代表