駐在先のアメリカに預金と不動産を遺して逝去した夫
とある一部上場企業に勤務する桑原さん(仮名・当時39歳)にアメリカの事業投資先への出向辞令が出たのはいまから20年ほど前のことでした。郊外にはまだ自然が多く残り、教育や医療環境にも恵まれたアメリカの南西部の主要都市への転勤ということで同い年の奥さんと当時小学生であった2人の子供も帯同させることにしました。
家族に先行して着任した桑原さんは現地で社会保障番号(SSN)と運転免許証を取得するのと同時に、銀行口座を開設しました。
また住居に関しては、会社から支給される住宅手当の範囲に収まる賃貸物件を検討していたのですが、希望にあういい物件が見当たりません。そこで駐在期間も5年前後の予定でしたので、頭金を一部入れ、思いきってローンを組んで大きめの中古庭付き一戸建て物件を購入することにしました。
帰国後もアメリカに一定の資産を保有し続けることに
公私ともに充実した5年間の駐在生活も終わりを迎え帰国することになった桑原さんですが、後任の駐在員からは、できれば桑原さんの家をそのまま賃借したいとの申し出がありました。
桑原さん自身もアメリカに一定の財産を保有し続けることは、個人資産の形成上もリスク分散上も「作戦的にあり」との判断で、自宅は売却せず、また銀行口座には数万ドルの預金を残したまま帰国することにしました。
後任の駐在員に賃貸したアメリカでの戸建て住宅は、後任者の帰国後は現地不動産会社を通じて一般賃貸に出されました。
物件の維持管理に関する現地不動産会社とのやり取りや、毎年の日米両国での確定申告の作業はそれなりに大変でしたが、毎月米ドルで現地銀行口座に振り込まれる家賃収入もさることながら、楽しい思い出がたくさんつまったアメリカの地に自分の資産を継続保有しているという充実感は大きいものがありました。
そんな桑原さんが突然の脳梗塞で倒れて亡くなってしまったのは、帰国してからもうすぐ15年目を迎えようとしていたころでした。遺言書はありませんでしたが、すでに独立した2人の子供たちは、夫の突然の死に焦燥する母親を思いやり、母親を中心とした遺産分割で揉めることもありませんでした。