「就職氷河期」+「パワハラ」で引きこもりに…
Tさんが大学生だった90年代は、バブル経済崩壊による不況で「就職氷河期」の真っ只中にありました。Tさんも就活時は約30社に応募したものの、どの会社にも採用されず。結局、そのうちの1社で「1年契約の非正規雇用なら採用する」と連絡のあったA社に入社しました。
しかし働き始めてみると、現実は厳しいものでした。同じ新卒にもかかわらず、正規雇用の人とは給与はもちろん、すべての面で待遇が異なっています。
なにより、指導役の先輩社員が非正規社員を見下した言動を繰り返し、これに我慢ならなくなったTさんは、入社後1ヵ月も経たないうちにA社を退職してしまいました。
その後、A社での体験がトラウマになったTさんは、再就職先を探す気力も出ず、定年間近の父と専業主婦の母が暮らす実家に引きこもるようになりました。
のちにTさんは当時について、「両親に心配をかけたくないので、自分でなんとかしなくてはと思った。でも、何をどうしたらいいのかわからない……部屋でじっとしていてもA社の先輩社員のことを思い出してしまうし、本当に苦しかった」と振り返ります。
Tさんに訪れた「転機」だったが…
そんなTさんに転機が訪れます。引きこもってから10年ほど経ったころ、母親がテレビを観ていると、成人の引きこもりの自立を支援する民間組織の活動が報じられていたのです。その施設のひとつが自宅近くにあることが分かった母は、Tさんをその施設へ連れ出しました。
嫌がりながらもついていくと、そこにはTさんと同じように「就職氷河期」を味わった、同じような境遇の人達が。勇気づけられたTさんは、その施設に通うようになりました。
また、そこの職員に、大学で専攻した専門的な技能を生かす自宅のパソコンでできる仕事を紹介してもらったことで、月に2~3万円ほど稼げるようになりました。
Tさんの作業は「丁寧で正確だ」と評判で、徐々に依頼が増えるにつれて、Tさんは少しずつ自信を取り戻します。そのようななか、よく依頼をくれるC社から「1年契約の非正規で働かないか」と誘われました。Tさんは意を決し、40歳からC社で働き始めました。
TさんがC社で働き始めてから8年が過ぎ、Tさんは48歳になりました。働き口を見つけたTさんですが、給与は手取りで約16万円(額面約20万円)です。
両親は、「Tが引きこもりを抜け出せたのは喜ばしいものの、このままでは将来が心配だ」と、知り合いである筆者のFP事務所に親子で訪れました。
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