愛人へのお手当、手切れ金などは贈与税の対象になる
個人から個人への無償による財産の譲渡は贈与となってしまいます。ですから、1月1日~12月31日の1年間で贈与税の基礎控除額110万円を超える分の贈与には、その超過額に応じて贈与税が課せられることになります。Aさんの元愛人には、贈与税の申告・納税義務が生じてしまいます。
贈与税額が2,000万円ということですが、マンションの評価額が4,500万円ほどになると贈与税額は2,000万円を超えてきます。
ほかにも現金で手切れ金やお手当も渡していますので、どこまで調査が進んでいるかはわかりませんが、こういった分も贈与税の対象になってしまいます。
Aさんの場合、元愛人がマンションを売却して贈与税を払ってくれれば問題はないのですが、「住む所がなくなる。生活できない」との理由で、頑として売却には応じません。それどころか「贈与税なんて聞いてない。騙したのね!」と落ち着いて話もできない状態です。
さらにその後はどこに行ってしまったのか、連絡も取れなくなってしまいます。Aさんは知り合いの税理士に相談しますが……。
受贈者が贈与税を払わない場合、どうなるのか?
さて、元愛人がこのまま贈与税を支払わなかったらどうなるのでしょうか? 相続税法34条4項では、次のように定められています。
つまり、贈与税については、「贈与者が受贈者と連帯して納付する義務がある」といっているわけで、贈与を受けた人が納付しなければ、贈与者に贈与税の納税義務が生じてしまうことになります。
さらに、贈与税の延滞税なども連帯納付義務の負担には含まれますので、放っておくと税額が膨らんでいってしまいます。
Aさんは、しぶしぶ元愛人の贈与税を支払う羽目になってしまいました。そんなAさんにさらなる悲劇が襲います。
奥さん激怒!とうとう離婚へ…
そして、これまでAさんが隠していた「愛人」「マンション」「贈与税」が奥さんにバレる日がやってきます。大きく減ってしまった財産や浮気に愕然とした奥さんは、当然大激怒! Aさんは離婚を切り出されます。
「あなたは愛人に一体いくら使ったのよ!」
さらに奥さんから「住む所がなくなる。生活できない」と、いつかどこかで聞いたようなセリフを聞かされたAさんは、慰謝料の支払いや残った財産の分割を行い、奥さんの言われるままに住宅ローンの支払いが残る一戸建てを追い出されてしまいます。
体調もすぐれないうえに精神的にもダメージを受けたAさんは働くこともできなくなり、離婚による年金分割で年金額も減らされ、侘しい一人暮らしもとうとう生活が立ち行かなくなり、自己破産の手続きを始めることになってしました。
「贈与税の連帯納付責任」については、知らない人も多いと思います。気安く多額の資産の譲渡には気を付ける必要がありますが、Aさんにとってはやはり離婚が一番のダメージだったようですね。
川淵 ゆかり
川淵ゆかり事務所
代表