定年が近くなってきたら、誰もが自身のセカンドライフを真剣に考えるようになるでしょう。しかし多くの場合、「親の介護」という難問が立ちはだかります。心配なのは「介護にかかるお金」ですが、「何も心配することはない」という親でも、思わぬ落とし穴が潜んでいます。みていきましょう。
年金14万円・80代母「お金のことは心配ご無用」と笑顔も…50代長女が泣かされた「老人ホーム請求額」 (※写真はイメージです/PIXTA)

「老人ホームの見学マニア」は要注意…決め切れない間に起きる「まさかの事態」

では、子ども世代が一番気がかりとする、老人ホームの費用についてみていきましょう。

 

老人ホームへの入居の際、まずかかるのが「入居一時金」。家賃の前払いのような制度で、0円という施設もあれば、高級な施設になると億単位になるなどピンキリ。平均は100万~300万円程度といわれています。

 

そして月額費用は平均で15万~30万円程度。さらに月額費用に含まれないサービス費や雑費が月2万~3万円程度、というのが平均値です。こちらもピンキリで、公的な施設になればグッと抑えることができます。その分、待機者も多く、待っている間に……ということもしばしば。民間施設のほうがスムーズな入居が叶うでしょう。一流シェフが監修する料理を提供、ジムやプールなど施設が充実、温泉完備など、特徴のある施設も多く、自身の好みにあった施設をみつける楽しみもあります。

 

では80代の母がどれくらいの費用を払うことができるのか……入居一時金は貯蓄から払い、月額費用プラスαは年金プラス貯蓄の取り崩しで払うというのが一般的。夫を亡くした80代の女性、国民年金は満額支給で6.6万円。遺族年金の平均額は月8.0万円。手取りは14万円程度になると考えられます。

 

また貯蓄はどれくらいあるものでしょうか。厚生労働省『令和4年 国民生活基礎調査』によると、70歳以上世帯の平均貯蓄額は1,594.7万円。負債額を引いても、1,500万円は残ります。80代以上ではこの金額よりも減っている可能性はありますが、よほど散財していない限り大きく減ってはいないはずです。

 

ーーお金のことは心配ご無用

 

と笑う80代の母。家族に迷惑をかけたくないと、老人ホームへの入居を見据えて見学をスタート。「老人ホームの費用、すべて自分で払うから。残ったら、全部あなたたちにあげるわ」。しっかりと先を見据えているなら、そんな余裕の言葉を子どもたちにかけるかもしれません。

 

ただ気をつけたいのが、前述の通り、昨今は特色ある魅力的な老人ホームが増えているということ。目移りしてしまい、見学を繰り返す「見学マニア」も多いといいます。ただ悠長に探していると、思わぬことで家族に迷惑をかけてしまうケースがあります。

 

老人ホームへの入居してから半年。いまだに決め切れていない様子の母を訪ねに行くと、「んっ⁉ なんか母の様子がおかしいぞ」と50代の長女。医者につれていくと、「認知症」と診断。実際、認知症は80歳代では3人に1人がなるといわれています。年齢が上がるにつれて発症リスクは高まり、「この前会ったときは、ちゃんとしていたのに……」ということも珍しくありません。

 

認知症の母の1人暮らしは不安ですし、連れて帰るのも大変です。急いで、認知症患者を受け入れてくれる高齢者施設を探すことが有力な選択肢となるでしょう。

 

しかし、ここでお金の問題。認知症になると口座は凍結され、身内でもしばらくは利用できないでしょう。親子の間でもお金の話をちゃんとしているケースは少なく、毎月の年金額や貯蓄額がどれくらいか、把握できているケースは珍しいでしょう。

 

この場合、とりあえず、親の老人ホーム入居に必要なお金は長女が立て替えるというのが現実的。数百万円の入居一時金を払い、毎月10数万円の利用額を払い……親のお金に手を付けられるまでの我慢とはいえ、思わず涙する出費です。

 

このような思わぬ認知症リスクに対しては、家族信託など、事前の対策が有効。何よりも「介護が必要になったら」「最期はどうしたい」など、親子でも話しにくいことも、きちんと話し合っておくことが一番の予防策となります。