父に先立たれた母を心配した夫、妻に同居を持ち掛け…
少子高齢化が進展する日本では、介護の問題が各家庭に重くのしかかっている。子どもが自身の親の介護を引き受けるのはもちろんだが、結婚後、配偶者の親を介護するケースも、もちろんある。
国立社会保障・人口問題研究所『第8回世帯動態調査』によると、結婚している20歳以上の女性の場合、夫の親と同居している割合は6.0%だった。逆に、妻の親と同居している男性の割合は3.2%となっている。
年齢別では、妻の場合、30代前半の5.6%から徐々に夫の親との同居は増えていき、50代前半で16.1%、50代後半で16.5%に達する。一方の夫はというと、40代後半で5.4%と5%台を超えるが、だいたい4%台の範囲で、あまり大きな変化は見られない。
50代で夫の親と同居する妻が増えるのは、やはり「親の介護」の問題が大きいだろう。
厚生労働省『2022年 国民生活基礎調査』によると、要介護者からみた主な介護者として最多なのは「(同居する)配偶者」で22.9%だった。「(同居する)子」は16.2%、「事業者」は15.7%、そして「別居する家族等」11.8%と続く。「同居する子の配偶者」は5.4%に過ぎない。
一方「同居する主な介護者」を男女別でみると、男性31.1%に対して女性68.9%と圧倒的だ。夫婦は平均して夫のほうが3~5歳ほど年上となる場合が多いことから、50代後半の妻の場合、夫の親は80代後半というケースが多いと考えられ、また、男女の平均寿命から義父が他界、義母が存命というパターンが想定される。しかも80代後半となると、半数以上が要介護・要支援となる。
父親に先立たれた母親を心配した夫から同居を持ち掛けられ、やむを得ず了承する、あるいは、親族一同から外堀を埋められ、同居に持ち込まれる…といったパターンが多いのではないか。しばしばインターネットの掲示板やSNSでは、「断固拒否」「離婚も視野」といった子どもの配偶者側の強気発言が散見されるが、実際のところ、過去によほどの深刻なトラブルでもない限り、受け入れることが多いのではないだろうか。
同居にあたっての経済面だが、厚生労働省によると、サラリーマンの妻が手にする遺族厚生年金の平均受取額は8.5万円程度。国民年金を満額手にしていれば、平均月14万~15万円ほどの年金を受給していると想定され、おそらく母親の年金だけで費用面は賄えるものと思われる。
「義母の介護」で妻に降りかかる、さまざまな負担
最も重要なのは「一体だれが介護するのか」という問題だ。
夫側は、仕事をしている自分ではなく、妻が母親の介護を行うことを想定し、母親の引き取りを決めていることが多い。これについては、ネットを少し検索すると、妻の立場から、恐ろしいほどの怨嗟の声があふれているのがわかる。
横浜市在住の50代のパート従業員の女性は語る。
「ある日、自宅に帰ったら姑がいたんです。夫は〈引き取ることにしたから〉って…。夫をリビングの外に引っ張って〈どういうこと? 私は聞いてないわよ!〉と詰め寄りましたが、ソファに所在なさげに座っている高齢の姑の前で、大げんかするわけにいかないじゃないですか…。そこから、なし崩し的に同居ですよ」
内閣府『男女共同参画白書 令和2年版』では、育児と介護における男女差について、下記のように検証している。
簡単にまとめると、夫婦どちらの親であっても、妻のほうが介護の負担がかかりがちということだ。
介護度が上がれば在宅介護では対応し切れず、施設への入所も視野に入ってくるわけだが、姑世代は施設についていまだに昭和時代の「姥捨て山」的なイメージを持つ人も多く、「家族に捨てられた」というショックな気持ちを持つ人もいる。
先の女性は語る。
「施設を嫌がったのは姑です。でも、介護は本当に大変でした。うちに来て気持ちが緩んだのか、一気にできないことが増えてしまって。自分より大柄な姑の介助で、私も腰を痛めてしまって。それで親族会議で〈もうムリだな〉という話になって。ついに施設へ行くことになりました」
「別に関係が悪かったわけではありませんが、ずっと別居でしたからね。正直、施設入所が決まった時は〈やれやれ〉と思いました。いまは自分の整形外科通いで大変です。最初から施設に入れてくれれば、こんな思いをしなくてすんだのに…」
介護は実子が行うものであり、妻だからといって何もかも引き受ける義理はないのだが、男性側にはまだ、昭和の価値観が残っているのか、何の疑問も持たずに、妻にすべてを丸投げして、それで解決したと考える「不届きもの」もいるようだ。
妻にも自分の人生がある。なかには介護のためにキャリアを中断したり、急に始まった介護の負担で健康を損なったりする人もいるだろう。
だが、負担の重い介護を家庭内に持ち込んで家族関係を悪化させるより、設備の整った施設でプロの手に任せたほうが、家族にとって、そしてなにより介護される高齢者本人にとって、プラスになるのではないだろうか。
もしかしたら、施設への入所が家族関係の改善のきっかけになるかもしれない。双方の幸せのため、家族間で「施設入所」という選択肢を検討してみることも重要だ。
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