入居から1年…夫に認知症の症状が
念願の老人ホーム生活も1年が経ったころ、夫に認知症の症状が現れるようになりました。
初めは物忘れや勘違いのような軽い状態でしたが、次第にAさんの顔もわからなくなる状態になるときもありました。Aさん夫婦の住む老人ホームには介護士も常駐しているため、世話には事欠きませんが、Aさんは夫と常に同じ空間で生活をしているため、次第に気が滅入ってきました。
特に夜中になると夫の症状は酷くなります。体を揺さぶって起こされ、食事をせがまれたり、家に帰して欲しいと泣き叫んだり……「もう耐えられない!」Aさんは悲鳴をあげます。
当初は2人部屋で仲良く過ごすつもりだったのに、夫に認知症の症状が現れてからというもの、Aさんは2人部屋の生活が苦しくなってきました。
「もちろん、夫がこういう状態になってしまったのも悲しいですが。この先どうしたらいいか……」とAさん。
そのうえ、なにも相談しないまま自宅を売ってまで老人ホームに入居しているため、息子たちにもこの状況を打ち明けることができないままでいるのでした。
「2人部屋の老人ホーム」のメリット・デメリット
Aさん夫婦の場合、認知症の進行が進み介護の度合いによっては、居住空間をわけるようなことも必要になってくるでしょう。夫を介護付き老人ホームへ入居させる等、改めて部屋探しをする必要も出てきます。その際には資金計画にも変更が出てくる可能性があります。
Aさんは、できる限り夫の世話を続けたいと考えていますが、いま以上に認知症が進んでしまった場合は、別部屋での生活や、夫を介護付き老人ホームへ移すことも考えています。
「終の棲家としてここに住んでいこうと、お互いに決めたことですから、できる限り一緒に過ごしたいと考えています。でも、まさかこんなことになろうとは。息子たちにもいまの状況をしっかりと話しておきたいと思います。もう少し先のことまで考えておくべきでした」
2人部屋の老人ホームへ入居する際には、下記のようなことに留意することが必要です。
2人部屋のメリット
1人1人で入居するよりも費用が抑えられる
夫婦で生活できることで、安心感につながる
2人部屋のデメリット
体調の変化など、お互いになにかあったときに住み替えのリスクがある
同じ空間で生活し続けることによるストレスがかかることがある
老人ホームを終の棲家にしようと考える夫婦は少なくありません。気に入った老人ホームがあれば、費用も抑えられて同じ空間で生活のできる2人部屋は魅力的かもしれません。
しかし、お互いにずっと健康であればいいですが、どちらかに介護や入院が必要となったときには残されたパートナーへの影響が大きいのも事実です。人にもよりますが、高齢になってからの引っ越しは、環境の大きな変化に体が適応できず、Aさんの夫のように急激に認知症が進行してしまうというケースも少なくありません。
老人ホームの検討の際にはそれぞれのメリットやデメリットを踏まえて部屋選びを行い、安心できる老後の生活を送れるよう、注意を払いましょう。
伊藤 貴徳
伊藤FPオフィス
代表