終の棲家をどうするか……多くの人にとって老後の大きな悩みのひとつでしょう。「住み慣れた自宅」を望む人も多いですが、身体的な衰えやケガに病気、そのほかさまざまな理由から終の棲家に「老人ホーム」を選ぶ人も少なくありません。本記事ではAさん夫妻の事例とともに、老人ホーム選びの注意点についてCFPの伊藤貴徳氏が解説します。
70代夫婦、年金月25万円と資産5,000万円で「理想の高級老人ホーム」へ入居も…翌年、妻は夜中に悲鳴、夫は帰りたいと号泣のワケ【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

「もしも」に備えて…老人ホームへの入居を検討

70代のAさん夫妻は都内の一軒家に住んでいます。2人の息子らも独立し、2人だけのセカンドライフを楽しんでいましたが、数年前に旅行先で夫が転倒し、足を骨折。数ヵ月ほど車椅子を頼り、日常生活に若干の支障が出る期間がありました。

 

Aさんは骨折が治るまでの数ヵ月、夫の世話をしているあいだにこんなことを思います。

 

「今後、お互いになにかあったときに、生活は大丈夫だろうか」

 

Aさん夫妻の住居は都内の一軒家。交通のアクセスはいいのですが、1階が車庫の3階建てとなっており、階段の上り下りがだんだんと堪えてくるようになりました。

 

「夫の骨折のときには特に大変でした。階段は車椅子で移動できないので、外出の際には一段一段這いずって上り下りしてもらいました」とAさん。

 

なにかあったときの生活のことを考えると、いっそのこと2人で老人ホームへ入居したほうがいいのではないか。その提案に夫も賛同し、自宅を売却して2人で老人ホームへ入居することを検討し始めました。

民間の事業者が運営する老人ホーム

民間事業者が運営するものを「有料老人ホーム」といいます。有料老人ホームにもさまざまな形態があり、入居希望者の考えに合わせたサービスを提供するホームを選ぶことが可能です。

 

有料老人ホームの特徴

・住宅型有料老人ホーム

ホームのスタッフによる見守り・食事の提供・掃除・洗濯などの生活支援サービスを行う。介護が必要になったときは、外部の介護事業者のサービスを利用する。手厚い介護が必要となった場合、退去をしなければならないことも。

 

・介護付き有料老人ホーム

上記の住居・生活支援サービスに加え、食事・入浴・排泄などの介護サービスが提供となる。自立している方も入居可能な「混合型」と、要介護1から入居可能な「介護専用型」がある。

 

・サービス付き高齢者向け住宅

サ高住と呼ばれる、高齢者のための賃貸住宅。安否確認、生活相談サービスの提供が義務つけられている。介護サービスは提供されない。

 

・ケアハウス

食事の提供などの日常生活に必要なサポートを受けられる施設。

 

・認知症高齢者グループホーム

認知症の高齢者が、自身の能力に応じて自立した日常生活を営めるようにすることを目的とした施設。

 

Aさん夫婦は、夫に軽度の介助は必要なものの、2人とも日常生活を送ることができることから住宅型有料老人ホームを選びました。

 

2人の選んだ老人ホームは、いわゆる高級老人ホームです。これまでの住まいからも近く、綺麗に整備された施設には中庭やオープンカフェがあったり、ガーデニングや入居者同士の交流ができるスペースがあったりと、住環境は申し分ありませんでした。特に気に入ったのは、2人部屋があるという点です。

 

「1人部屋ずつで生活するよりも、2人部屋のほうが費用も安くて住むし、なにより一緒に生活できるのは安心感があるし、一石二鳥ね」

 

自宅と比べると部屋は少々狭くなりますが、これまでの生活リズムを変えずに、理想の住環境への引越しをすることができると2人は大喜び。

 

自宅の売却はスムーズに進み、念願の老人ホームでの生活が始まりました。

 

Aさん夫妻の入居の資金計画

自宅の売却代金4,000万円

貯蓄1,000万円

住宅型老人ホームの月額60万円

Aさん夫妻の年金月額25万円

 

支出

年金と入居月額の差額は月35万円

(平均余命まであと10年とした場合)10年間×12ヶ月×35万円=差額合計4,200万円

資産5,000万円

 

自宅の売却代金4,000万円と貯蓄1,000万円を合計すると、平均余命までは資産を取り崩すことでなんとか足りそうです。

 

入居が決まり、引越し直前に一応息子たちにも伝えておこうと報告の連絡を入れました。息子たちは突然の事後報告に揃って怒りを露わにします。しかしすでに自宅は売却済みです。仕方なく了承した形となりました。