今年6月末、政府税制調査会は「給与所得控除の見直し」についての言及を含んだ答申を岸田首相に提出しました。これに対し国民からは「サラリーマン増税ではないか」と怒りの声が上がっています。では、今回の「見直し」は給与所得者にどのような影響をおよぼすのでしょうか。FP Office株式会社の清水豊氏が解説します。
年収500万円なら「年29万円」の税負担増…会社員が直面する「サラリーマン増税」という悲しい現実 (※写真はイメージです/PIXTA)

資産形成のために理解しておきたい「r>g」という不等式

資産運用を行ううえでヒントになるのが、数年前にベストセラーとなった『21世紀の資本』を書いた、フランスの経済学者トマ・ピケティの考え方です。

 

ピケティ氏は、世界的に富める人と貧しい人の資産格差が拡大していることを実証するうえで、格差が拡大した理由を説明する数学的なモデルとして「r>g」(資本収益率>経済成長率)という式を示しました。

 

この不等式が意味するのは、「資産 (資本) によって得られる富(つまり資産運用により得られる富)は、労働によって得られる富よりも成長が早い」ということです。

 

彼が同書のなかで「18世紀まで遡ってデータを分析した結果、r(資本収益率)が年に5%程度であるにもかかわらず、g(経済成長率)は1~2%程度しかなかった」と指摘しているとおり、これは言い換えれば「裕福な人 (資産を持っている人) はより裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない」という現実を示唆しています。

 

「知的資産」も富…スキルアップで原資を作り「r」を増やす

すでに大きな資産を運用して「r>g」になっている人は問題ありませんが、原資がない一般的なサラリーマンはできるだけ早くから資産運用を始めるべきです。とはいえ、現在の収入では原資を貯めるだけの余裕がないという人もいることでしょう。

 

しかし、ピケティ氏はこうした部分についても我々に有益な示唆を与えてくれています。ピケティ氏が「富」として定義しているのは、特定の金融資産や企業の設備投資だけではなく、「知的資産」もそこに含まれます。

 

そして、「これまでのキャリアで得られたノウハウや人間関係、知的資産を含めたあらゆる資産を総動員することで、『“自分”という資産から収益を得ていく』という考え方がより重要となってくる」というのです。

 

日本は本格的な格差社会に突入してきています。持つ者と持たざる者の差が一層明確となり、中間層が消える未来が訪れるかもしれません。現在大きな金融資産を持っていない人でも、「自分自身に資産価値を持たせる」という考え方でスキルアップなどをして貯蓄や収入を増やしていけば、それを原資としていよいよあとは運用するだけです。

 

そうすれば、最初は小規模でも「r」の割合を増やし、「r>g」を成立させることができるのではないでしょうか。

 

 

清水 豊

FP Office

ファイナンシャル・プランナー