教育費負担を終えたあと、間髪入れずに襲い掛かる「老後資金問題」
2019年に老後2,000万円が不足するという話題がありましたが、松下さんも50歳を前に老後に対する不安も抱くようになっていました。
子ども2人が大学へ進学することで、教育費のために借入金を行うことになり、貯蓄はほとんどありません。
収入が少ないままで、夫婦の老後の準備がまったくできていなかった山下さんは、これだけ一生懸命働いても大きく増えることもなく、出費だけが多くなる現状に辟易としていました。しかし、子どもたちが独立すれば、その後は教育費の負担がなくなるので、もう少しの辛抱だと節約生活に鞭を打ってなんとか最後の精神力を保っていましたが、限界は近いようです。
「いろんなところを切り詰められるだけ切り詰めて生活していますが、不安で仕方ありません。これ以上なにを削れるのでしょうか」
妻とともに将来キャッシュフローを確認、夫婦で改善策を考える
今回の例をみると、妻が働きに出ないことで生活が苦しくなっていると感じる人は多いと思いますが、実際に筆者のもとへも、夫の収入が多くなくても妻が専業主婦をしているという家庭からの相談を受けることは多々あります。
その家庭の価値観を覆すつもりはありません。しかし、子どもが小さいころは出費がそれほど多くないかもしれませんが、成長とともに出費が増えることやインフレについてはしっかりと考えておく必要があり、かつてはインフレを意識していない人が多く見受けられたことも事実です。最近では円安や原油高により物価上昇のラッシュが押し寄せて、多くの人がインフレを意識するようになってきたと思います。
将来キャッシュフローを作成し、将来のお金の流れを見える化、問題点などを夫婦で共有し、改善策を考えることが望ましいと考えます。
収入が少ない場合、お金をいかに節約するかという点に焦点を当てがちです。もちろんそれも重要なことですが、資産を増やす努力もするべきです。
現在は政府も貯蓄から投資へと資産運用を行う後押しをする税制優遇制度(NISAやiDeCo)を打ち出しています。最近では税制優遇制度の周知も広がり、資産運用を行う人も増えていると思いますが、松下さんの場合も、子どもが2人独立したあとからでも税制優遇制度を活用しながら老後資金を準備することが可能です。
投資は長期投資が基本と言われるため、「50歳から資産運用を行うのでは、遅いのでは?」と感じる人もいるかもしれません。しかし、50歳からでも60歳まで10年という長期の運用ができるのです。
また人生100年時代といわるように長寿化が進んでいるなかで、60歳定年から65歳定年が当たり前のように変化をしてきています。政府も2024年からNISAの非課税期間を恒久化し、iDeCoも条件次第で75歳から受取ができるように制度が拡充されました。
これまで日本では投資と投機を混同した誤った認識が多かったと感じますが、投資に対して正しい認識が以前からあれば、今回のようなケースでも教育費の準備や老後資金の準備も無理なくできたのかもしれません。
<参考>
吉野 裕一
FP事務所MoneySmith
代表