10年で10分の1の水準になったトルコリラ/円
ここで、2010年以降のトルコリラ/円のチャートをみてみましょう。
2010年には約64円の水準でしたが、その後はほぼ下落一辺倒となっており、直近の2023年9月には10分の1以下の5円台という水準となっています。村井さんが取引を始めたのは2017年ですが、まさに落ちるナイフをつかむという危険な状態だったのです。
このチャートからは、「さすがにこれ以上は下がらないだろう」といった割安感だけで、安易にトレードすることの危険さが読み取れるのではないでしょうか。
続いて、トルコリラの価値に大きく関係する消費者物価(年間変化率)の推移もみてみましょう。
2010年以降、トルコの消費者物価は概ね5~10%を推移しています。日本銀行の物価安定の目標が2%であることを踏まえると、高い水準であることが分かります。このような物価上昇の進行を抑えるために、トルコ中央銀行は高い政策金利を設定しており、トルコリラは高金利通貨となっているわけです。
さらにここ数年は極端なインフレが進行しており、2022年8月時点では、1年前と比較して物価が85%も上昇するという異常な状態です。現在は世界的にインフレが進行していますが、その中でもトルコの物価上昇は特に激しく、経済状況は非常に不安定といわざるを得ないでしょう。
物価が上昇するということは、同じ金額で買えるものが減るということであり、単位あたりの通貨価値が下落していることに他なりません。トルコリラの長期的な下落の背景には、トルコの高い物価上昇率があるといえそうです。
意外と難しい高金利通貨トレード
高金利通貨には、このような形で高いインフレ率を抑えるために中央銀行が高い政策金利を設定しているという事情があります。つまり、高い金利収入が得られやすい反面、通貨価値は下落しており、為替相場の変動によって売買損失が拡大しやすいことを頭に入れておくべきでしょう。
もちろん為替相場における下落が行き過ぎた際には、反転上昇のトレンドが発生することもあり、売買利益と金利収入の両方をねらえる「おいしい局面」もあります。しかし、高金利通貨のトレードは、「長期保有さえすれば金利収入で必ず儲けられる」といった単純なものではないことは、頭の片隅に置いておくべきです。
高金利通貨トレードで意識すべき5つのポイント
今回は、FXの高金利通貨トレードに挑戦して失敗した村井さんのエピソードを通じて、高金利通貨で陥りやすい落とし穴について解説してきました。最後に、高金利通貨の取引を行う際に意識しておきたいポイントを整理しておきます。
高金利通貨は保有するだけで高い金利収入が得られるメリットがありますが、同時に通貨の価値が下落しやすい側面もあります。金利収入だけに目を向けて軽い気持ちでポジションを持つと、大きな失敗につながる可能性があるので注意が必要です。
通貨価値の下落リスクを確認する際は、為替相場における長期的なトレンドを確認することが大切です。長期的に下落トレンドが続いているのであれば、長期保有を続けると通貨価値の下落による損失が拡大することが懸念されます。利益を得るための戦略としては、反発するタイミングをねらってポジションを持ち、下落トレンドが再開する前にポジションを決済する形が基本となるでしょう。
高金利通貨は構造的に、下落が長期間にわたって継続することが十分に考えられます。仮に低レバレッジのトレードをしていても、こういった大幅な下落に巻き込まれると、損失が拡大してしまいかねません。もし、自身が想定していない相場展開となった際には、すぐに損切りの判断ができるように、あらかじめ撤退のシナリオも検討しておくことをおすすめします。
高金利通貨が高金利なのは、中央銀行が政策金利を高く設定しているからです。当局の政策次第では状況が変わることも考えられ、政策変更による影響も受けやすいところがあります。そのため対象国のニュースやレポートをチェックして、政治や経済の動向を細かく把握しておいたほうがいいでしょう。
高金利通貨は長期保有をするだけで利益を挙げられるものではなく、適切なタイミングで取引することも重要です。そのタイミングを感覚的に判断すると、トレードの成否が運に左右されることになります。テクニカル分析を活用するなど、客観的な根拠に基づいてトレードを行うのが望ましいと考えられます。
高金利通貨の難しさを強調してきましたが、上手にトレードを行えば売買損益と金利収入の一石二鳥をねらえることもあります。高金利通貨に挑戦してみようと考えている人は、上記の5つのポイントを意識しながら、丁寧にトレードに取り組んでみましょう。