年金だけでは老人ホームの費用は賄えない…家族を巻き込む騒動も
厚生労働省の調査によると、国民年金受給者の平均受取額は5.6万円、厚生年金受給者の平均受取額は月14万円ほど。年金だけで月額費用が賄えない場合は、貯蓄を取り崩して対応するか、または家族が負担するか、となるでしょう。
国民年金だけの80代の母が「介護付き有料老人ホーム」に入居を検討するとしましょう。老人ホームからの請求額と母の年金の差額、月10万円ほどを子どもたちで負担しようということになって……最近、よく耳にする話です。
「母には良い老人ホームに入ってもらいたい」と、親を思う優しい気持ちは子どもたち、みな共通。しかし現実問題、費用を負担するとなると話は別で、家庭によって事情はさまざま。「きょうだい、みんな平等で負担すべき」と長女が口火を切れば、「うちは経済的に無理。年上なんだからお姉さんが負担すべき」と、年長者に責任を押し付ける次男や次女。「私にばかり親を押し付けてお金を出せないとは!」と、話は平行線を辿る……ここまでが、最近よく耳にする話の顛末です。そんな様子を見ていたら、母も「老人ホームに入るなんて、無理だわ」と諦めざるを得ないでしょう。
ただ先のことを考えると、やはり施設に入居したい……予算は国民年金の月受給額の5万円だけ。これで老人ホームへの入居を考えることはできるのでしょうか。
ひとつの選択肢として考えられるのは、民間の施設ではなく公的な施設。なかでも最有力候補といえるのが「介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)」で、特養といわれる施設です。
対象となるのは介護度3以上で、それ以下では特別な許可が必要になります。入居一時金は不要で、月費用は本人の所得や要介護度によって変わります。所得が国民年金だけで貯蓄もほぼないという状態なら、月額費用は1部屋4人の多床室で月2.5万~4.7万円程度。そこに理容美容代やおむつ代など、保険適用外の費用が月1万~2万円。トータルでも国民年金だけで賄うことはできそうです。
ただし公的な施設は低価格ということもあり、どこも人気。特に特養は申込者の半分しか入居できないという状況がで、待機の間に亡くなるケースも珍しくありません。費用的には国民年金だけで老人ホームへの入居は可能でも、実際に入るには別の高いハードルがあるのが現実です。
公益財団法人全国有料老人ホーム協会の調査によると、生活保護受給者を受け入れている「介護付き有料老人ホーム」は全体の10%を超えるといいます。そのため国民年金だけが頼りという水準であれば、生活保護を申請したうえ老人ホームを探すという手も。
ただし、生活保護を受けるためには家族からの支援が期待できないという状況に限ります。老人ホームの費用分担で家族が揉めている場合は、生活保護という選択肢は考えられないでしょう。やはり親の老人ホーム入居に向けて「家族が一致団結」というのが望ましい姿。しかし、ない袖は振れず、家族としても難しい問題です。