賃貸物件に住み毎月家賃を支払うのか、それともマイホームを購入して毎月住宅ローンを返済するのか……。どちらが正解なのか多くの人が迷うところです。特に、地方では「持ち家一択」の風潮がありますが、これには注意が必要と、長岡FP事務所代表の長岡理知氏はいいます。本記事ではKさんの事例とともに、地方における「賃貸 vs. 持ち家」論争について徹底比較します。
東北在住・世帯年収830万円の30代夫婦「4,500万円の戸建て購入」に及び腰…「地方の持ち家信仰」に潜む落とし穴【FPの助言】 (※画像はイメージです/PIXTA)

賃貸と持ち家のコスト比較

賃貸と持ち家のコストを冷静に比較してみます。

 

賃貸の場合、必要なのは毎月の家賃、共益費・管理費、駐車場代、更新料、家財保険(火災保険)、住み替え時の転居費用、万が一のときに家族が家賃を払うための死亡保険などです。合計月10万円を50年間支払うと、6,000万円になります。

 

これで家は自分のものにはならないのですから、確かに高く感じます。しかしエアコンや給湯器などの設備は一般的にオーナー・管理会社が交換してくれるので、自己負担はありません。転居費用は数十万円かかるものの築浅の物件に住み替えることも可能です。

 

一方で持ち家の場合はどうでしょうか。土地・建物で5,000万円とします。フルローンで購入した場合、金利0.5%として利息は35年で約406万円かかります。

 

また、定期的なメンテナンスも必要です。10年ごとの屋根外壁の塗り替えに150万円(50年で750万円)、エアコン・給湯器・太陽光発電システムのパワーコンディショナーなど設備の交換、トイレ・バスルームなどのリフォーム、細かい修繕、固定資産税、都市計画税、火災保険・地震保険、50年後の解体費用(坪単価3万円~5万円)など、維持するにも莫大な費用がかかります。

 

住宅ローンの変動金利が上昇したら、利息の負担も増えていきます。日本における滅失登記までの築後年数の平均、つまり解体までの平均は38.2年です。極端なローコスト住宅や、高級住宅でもメンテナンスを怠れば50年も持たずに腐朽し解体することもありえます。解体したら建て替えとなるのでさらなるコストが必要です。

 

家賃や土地の値段は地域によって大きな差があるため一概に比較できませんが、家賃と地価が安い地域では、持ち家のほうがはるかに高コストです。地価が安くても建物の価格や、交換する設備や屋根外壁工事の値段やタイミングは全国でほぼ同じだからです。

 

ではリノベした中古物件はどうかと考える人も一定数いますが、表面上のリノベーションだけで建物の寿命が大きく伸びることはないでしょう。価格は安いものの維持費もかかり決してコスパはよくありません。

 

このように比較していくと、持ち家はコストが高くなる可能性があるのがわかります。少なくとも「賃貸はコスパが悪い」とは言い切れません。

大切なのは家族との話し合い

持ち家が換金性の高い「資産」となるケースは限定的です。特に地方都市の戸建てでは、築古になってから売却しようとしても驚くほど安い値段にしかなりません。

 

子供達が遠くに引っ越して自立し、その建物を誰も必要としなくなれば、親亡きあとに子供達にとって負の遺産となることもありえます。思うように売れず、解体しようにも費用が高く、空き家となっても固定資産税などの維持費がかさんでいくのです。

 

持ち家といえども一代限りの消費財と捉え、子供たちが解体し処分する費用を踏まえて相続財産を残すべきでしょう。核家族化が進んでいる現代では、解体などの後始末まで含めて「持ち家」なのです。

 

先述したとおり、コスト面では持ち家は賃貸よりも総コストが大きくなります。売却しやすい都心のマンションでない限り、持ち家はコスパが悪いのです。それでも持ち家を選択するためには、家族でメリットを話し合う必要があります。

 

持ち家のほうがQOLが上がる、子供が友達を家に連れてくることができる、快適でストレスが低い、賃貸は嫌い、持ち家が夢だったなど、あえて高いコストをかける理由がはっきりしてから、家族で合意したうえで購入計画を立てるほうが家計管理上も安全です。

 

 

長岡 理知

長岡FP事務所

代表