勧誘の現場で散見される「違法行為」
上記の勧誘現場では、特定商取引法に違反する行為がいくつも見受けられます。
たとえば、高山さんが「久々に飲もうよ」と言って吉永さんを呼び出し、投資商材の勧誘を行った行為。ルールに則るならば、勧誘に先立って「私は●●という会社で△△という商品を販売する仕事をしています。仕事を始めるには、代理店としての登録料等で50万円かかりますが、あなたにも紹介したいので、一度会って話しませんか」といった形で、本人や事業者、商品の名称、特定負担(販売員となるために消費者が負う金銭的負担)を伴う取引についての勧誘を行う旨を明示しなければなりません。
また、適切な方法でアポイントを取った場合にも、勧誘時には、業者の名称や住所、電話番号、商品情報や特定負担・特定利益に関する事項、クーリングオフに関する事項など、法律で定められた事項を記載した「概要書面」を交付することが義務付けられています。
そして、ケンさんが大声で脅し、高山さんが個室の出口をふさいだ行為。これは特定商取引法上の禁止行為に当たる「契約を締結させ、又は契約の解除を妨げるために、相手方を威迫して困惑させること」に該当します。そもそも、逃げ場のない個室での勧誘も、「公衆の出入りする場所以外の場所で、特定負担を伴う取引についての契約の締結について勧誘を行うこと」として、禁止行為に指定されています。
吉永さんのようにやむを得ず契約を締結してしまった場合も、契約を解除できる「クーリング・オフ」の権利が消費者には認められています。その期間は、法律で定められた書面の交付を受けた日から20日以内。訪問販売や電話勧誘販売はこれが8日間とされていますから、連鎖販売取引の場合、契約締結後もゆっくりと考える時間があるということです。
なお、たとえば勧誘者が、今回のケースでいえば高山さんが「クーリング・オフはできない」などと事実と異なることを伝え、吉永さんが困惑している間に20日間が過ぎてしまったような場合は、20日を過ぎた後でも、契約の解除が可能です。
「損をすることはない」…そんな上手い話はない
行政の相談窓口に本件について問い合わせ、「クーリング・オフ」の存在を知った吉永さんは、無事に契約を解除でき、ほっと胸をなでおろしました。その後、吉永さんが高山さんと縁を切ったことは言うまでもありません。
マルチ商法の違法な勧誘現場では、「すぐに取り返せるから、登録料は消費者金融で借りておいでよ」と借金のしかたを教える行為や、高級な腕時計やアクセサリーを見せびらかし「あなたも」といって、射幸心を煽るような行為が多いようです。
「損をすることはない」などと儲け話を持ちかけられた場合、相手が親しい友人であってもハッキリ断りましょう。
また、勧誘者の熱意に心を打たれたり、脅されて怖くなったりしてやむを得ず契約してしまった場合も、その事業が「明らかにあやしい」「どんな仕組みで収益が発生するのか理解できない」という場合は、落ち着いてクーリング・オフの手続きを行うことが重要です。