がん保険加入時、決してやってはいけないこと……それが「告知義務違反」です。「たいしたことない」という自己判断が、いざがんに罹患したときに『契約解除』という最悪の事態を引き起こします。いまはネットで気軽にがん保険に加入できますが、その手続きには細心の注意が必要なのです。本記事では、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏が、松下ゆかりさん(仮名・40歳)の事例とともに、がん保険の告知義務違反について解説します。
年収450万円の40歳事務職、大腸がん治療後にまさかの「がん保険契約解除」の悲劇…ネット加入でトラブル頻発!「告知義務違反」の恐怖【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

告知義務違反と契約解除権

がん保険契約の際には申込手続きをする前に、重要事項の説明があります。保険も金融商品のひとつで、一般の消費者にとっては複雑でわかりづらい、そして実際に契約においてさまざまなトラブルが発生しているので、金融庁の監督のもと保険会社や保険商品の案内をする者(保険募集人)に対しては、説明義務が課されています。

 

保険会社を問わず保険を契約する人(保険契約者)に対して必ず説明すべき重要事項のひとつに『告知義務』があります。がん保険の場合、一般的には健康状態などに対する質問事項に対して、保険契約者はありのままを申告(告知)する義務を負います。

 

そして万が一その告知に、

 

・故意または重大な過失により事実を回答しなかった場合
・故意または重大な過失により事実でないことを回答した場合

 

保険契約が解除される場合がある旨が明記されています。契約上保険会社には契約の解除権があり、告知義務違反の事実が確認された場合には、一定の要件のもと一方的に契約を解除することができるようになっています。

 

便潜血は大腸がんの疑い

今回の事例において松下さんは、1年前の健康診断で『便潜血』の指摘を受けていましたが、体調に異常がなかったことや医師の診察を受けたわけではなかったという理由から「大したことではない」と思いその事実を申告(告知)しませんでした。

 

松下さんは便潜血を大したことではないと認識していたのですが、実は『便潜血』の指摘は「大腸がんの疑いあり」という意味合いです。ですから1年前の指摘を正直に告知していた場合、がん保険の診査が通らず加入できなかった可能性があります。反対に言えば、うその告知をすればがん保険に加入はできてしまう可能性があるということです。

 

ただ、がん保険は加入することが目的ではありません。今回の事例のように、大腸がんが発覚して手術を受け、術後に抗がん剤治療でお金がかかってしまったときにそのお金を肩代わりしてもらう、そのためにがん保険に加入するのです。

 

すべて自己責任のネット経由の保険加入

10ヵ月前松下さんはネット経由で手続きできる保険会社のがん保険に加入しました。しつこい勧誘もなく、ネット上でさまざまなプランや毎月の費用負担(保険料)のシミュレーションを行って、自分なりに満足したうえで決めることができました。

 

そして保障内容や重要事項の説明なども画面上で確認し、理解したうえで申し込んだつもりでした。便潜血の指摘についても隠すことが目的ではなく、そこまで大事な情報なのかどうかがわからないということから「大したことではない」という判断に至り、告知をせずに手続きを完了してしまいました。

 

当然ですが保険担当者が対応してがん保険に申し込む場合には、必ずありのまま告知することを伝えられるはずです。本来告知書には、自己判断が入る余地はなく、あくまで医師から伝えられたこと、健康診断結果に書かれていることをそのまま転記しなければなりません。

 

ネット経由の保険契約には実はこういったリスクがあります。もちろんネット経由でも、この告知義務違反による契約解除の説明は必ずされています。ただし、文章で羅列されているだけであること、そして説明事項がほかにもたくさんあることから、流し読みで終わってしまう可能性はあるかもしれません。

 

がん保険の契約で私が最も起こってはならないと考えていることが、今回の事例のような「がんの宣告を受け、がん治療を受けたにもかかわらず、がん保険が支払い対象外となる」ことです。そして告知義務違反の場合、支払対象外だけではなく合わせて『契約解除』というとても厳しい結果も待っています。

 

ですからネット経由でのがん保険契約は、すべて自分で内容を正しく理解できるということを前提に選択肢とするべき手段であるといえます。

がん保険加入、少しでも不安・疑問があれば相談を

がん保険は本当にがんになってみないとその真価がわかりません。そのため加入時には念には念を入れて適切な対応をしておく必要があります。今回の事例でいえばネット経由であったので、告知に際し疑問が出たとき、保険会社のコールセンター等に問合せ、確認することが必須であったといえます。

 

もし自分ひとりでは理解することに不安がある場合には、ネットだけで完結するのではなく、事前に専門家などへ相談するなど慎重に対応することをお勧めいたします。

 

 

谷藤 淳一

株式会社ライフヴィジョン

代表取締役