ベネッセが中高生に実施したアンケートによると、現役中高生のなりたい職業の1位は「教師・教員・大学教授」でした。また、職業別の平均年収ランキングでは10位(小・中学校教員)と、収入面でも魅力的な「教師」という職業ですが、現役東京西徳洲会病院小児医療センターの秋谷進医師は「教師が抱える健康リスク」について警鐘を鳴らします。教師という職業の「収入面」と「健康面」を詳しくみていきましょう。
年収739万円、中高生の憧れだが…「やめたい」「きつい」教師につきまとう健康リスク【医師が警告】 (※写真はイメージです/PIXTA)

さまざまな体の不調が…教師につきまとう「健康リスク」

教師は、非常に忙しい職業の1つです。生徒たちの学力を上げるのはもちろんのこと、生徒が精神的にも身体的にも健やかになるように、日々奮闘しています。

 

学校全体の行事のスケジュール管理はもちろん、生徒一人ひとりへのケアやスケジュール管理、テストの採点、宿題の管理、さまざまな生徒間のトラブルへの対処などなど……教師の業務は枚挙にいとまがありません。

 

そのため、教師もさまざまな健康リスクがあることは、多くの論文で言われています。

 

たとえば、複数の研究をまとめた論文※1によると、学校の種類に関係なく、実際に下記のような健康リスクが言われています(%はアンケート調査で教師が健康被害を訴える確率)。

※1 Teachers’ Health. Dtsch Arztebl Int. 2015 May; 112(20): 347–356.(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4558646/)

 

  • 首や背中の痛み:71~73%
  • 集中力の低下や物忘れ:59~72%
  • 睡眠障害:34~44%
  • 頭痛:43~52%
  • 内面のおちつきのなさ:29~41%
  • かすみ目:25~38%

 

他にも、極度の疲労と倦怠感、緊張、過敏性の増加など、さまざまな健康リスクがあります。

 

10人中、7人の教師が首や背中の痛みを感じ、集中力の低下も半数以上、睡眠障害も3〜4割も感じているのは、かなりの健康被害といえます。

 

教師にはなぜここまで多くの健康被害があるのでしょうか。

 

首や背中の痛みの原因

たとえば首や背中の痛みは、特に現場で働く教師は授業中ずっと立ちっぱなしであることがあげられています。また、黒板を用いて講義をする際、首を上に向ける動作が多いことも考えられます。

 

時間外労働「45時間以上」で心理的苦痛が大幅に増加

また日本の研究※2によると、長時間労働によって心理的苦痛が大幅に増加することがいわれています。特に、月に45時間以上の時間外労働をしている男性では、心理的苦痛のリスクが大幅に増加しているという報告もあるのです。

※2 Long working hours and psychological distress among school teachers in Japan. J Occup Health 2015; 57: 20–27(https://www.jstage.jst.go.jp/article/joh/57/1/57_14-0127-OA/_html/-char/ja)

 

他にも、教師はさまざまな人間関係によって心理的苦痛を感じやすいとされており、「燃え尽き症候群」にいたる教師も少なくありません。

 

さらに、心理的苦痛の有病率は男性(47.8%)よりも女性(57.8%)のほうが高いとされています。

 

その背景として、

 

  • 女性は長時間労働に加えて家事が加わり男性よりも余分に仕事しやすいこと
  • 女性にとって長時間労働はあまり一般的ではなく、仕事と家庭の対立などの観点からよりストレスがかかる可能性があること

 

が同論文ではあげられています。

 

要するに、特に日本では、夫が欧米諸国に比べて家事に費やす時間が短いため、女性は男性よりも家庭生活の影響を強く受けやすい、ということですね。

 

また、教師特有の人間関係も精神的ストレスにつながります。教師間での人間関係はもちろんのこと、生徒も含めると教師は独自の人間関係のネットワークがあり、また社会も閉鎖的になりがちです。

 

また、教師は「対人サービス」が基本になっています。そのため、いろいろな場面で気を遣う必要があるのでしょう。

 

このように、教師はさまざまな健康リスクを抱えながら、生徒たちのために奮闘していることが論文上でもうかがえます。