iDeCoのメリットは多いが…「資金拘束」という落とし穴
困り果てたAさんは、iDeCo加入から2年が経過していることに気付いた。早速スマホでiDeCo残高を確認すると、運用益込みで52万円。「これを解約すれば、何とか今の危機を乗り越えられるぞ」と期待した。
しかしiDeCoは、原則として60歳になるまで支払った掛金と運用益を受け取ることができない。Aさんはそんな基本的なことすら知らずにに加入していたのだ。
そのような状態で私たちの事務所に相談に来たAさんに対して、筆者は
①「iDeCoの掛金支払いを止める」
②「両親に資金援助を頼む」
いささかシンプル過ぎるが、もっとも即効性のある2つのアドバイスを行った。
アドバイスを受け入れたAさんであったが、特に2つ目のアドバイスを実行するのは気が進まない様子で、事務所を後にするときのAさんの浮かない表情が印象に残っている。
しかし2週間後、前回とは打って変わって明るい表情のAさんが再来社した。開口一番「アドバイス通りにやってみたら、なんとかなりそうです」とお礼の言葉をいただいた。
まず①「iDeCoの掛金支払いを止める」については、掛金の拠出を一時的に止めるため、AさんにはiDeCo口座がある金融機関に「加入者資格喪失届」という書類を提出してもらった。月々2万円の掛金支払いが止まることは、大きな安心につながったとのこと。
②については、勇気を出してAさんの両親に願いしたところ、案外あっけなく資金援助に応じてくれることになったそうだ。
さらに妻の病状も快方に向かっており、早ければ来月から以前のパート先に復帰できる見込みだという。同時期に、Aさん自身もフルタイム勤務に戻る申請を職場に提出した。
では今回の失敗を踏まえ、AさんはiDeCoとどのように付き合っていけば良かったのだろうか。
iDeCoは資産形成の心強い味方だが…リスクを踏まえて、あくまでも「余ったお金」で投資する
結論は、住宅ローンを始め、出産・育児・病気などにより収入が不安定になるリスクを踏まえ、予期せぬ収入減に備えた生活防衛資金と、将来発生する学費について、預貯金などの流動性資金で十分に用意しておく必要があった。そのうえで余ったお金をiDeCoに投入するのが正解だった。
iDeCoのように資金拘束性の強い金融商品加入を検討する場合には、20年~30年先を見据えた、長期的な視野や判断力が求められる。
しかし、専門外の者にこのような判断力を求めるのは、やや荷が重いのではなかろうか。そう思った人がいるならば、ためらわず公正・中立な外部の知見を適切に活用して欲しい。
まずは信頼できるFP(ファイナンシャル・プランナー)など、お金の専門家に相談してみるのも一考に値するだろう。
志村 哲司
FP Office株式会社
ファイナンシャルプランナー