高齢化が進むなか、人生を共にした伴侶が先立ち、最期はひとり暮らしになる高齢者も少なくありません。そうした際に、悩みのタネとなりやすいのが、これまでの住まいをどうすべきか問題。もし売却を決断したとしても、思うようにはいかないことも多々あるようで……。本記事は、Aさんの事例とともに、高齢者が終の住処を考えるうえで重要なことについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
〈年金月10万円の元自営業80歳・独居老人〉思い出いっぱいのマイホームを泣く泣く手放す決意も…不動産屋から告げられた「衝撃のひと言」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

想定より大幅に安い価格が提示される

Aさんがマイホームを建てたときの40年前の価格は3,600万円でした。家は古くはなっているものの、リフォームを重ねていたため、まだまだ住める状況です。周りは住宅街、土地の値段も上がっていると聞いていたAさんは、同じ町内会で仲がよかった友人の話も聞き、少なくとも2,500万円くらいにはなるだろうと考えていました。

 

しかし、不動産屋さんからの回答に愕然とします。不動産屋さん曰く「いいとこ1,500万円ですね」というのです。なぜ1,500万円かというと、家賃設定が月8万円、賃貸住宅の状態で売却するならば、購入者が住むことができないため、投資用の収益物件としての売却になります。

 

月8万円、年間96万円の家賃収入を生み出すマイホームの価値は、大きく見積もっても1,500万円というわけです。

※利回りに換算すると96万円÷1,500万円/100=6.4%一般的な都会の投資用ワンルームマンションの利回りは4%程度といわれています。

 

現在の居住者である50代の両親、20代の娘の3人家族はその家と住環境を気に入っており「私も娘もこの家と暮らしを気に入っており、末永く暮らしたいんです」と、当面退去しそうにありません。この家族への売却も打診してみたのですが、「2,500万円も出すくらいなら、家賃8万円で住み続けます」とAさんの希望の売却価格での交渉は進む気配がまったくありません。

 

不動産屋に「なんとかなりませんか?」と泣きついたAさんですが、「賃料も滞りなく支払って下さっており、物件も丁寧に使用されていますから、立ち退きしてもらうにしても相当な立ち退き料の提示が必要ですね」と言われてしまいました。

 

手元資金1,000万円を切ったAさんからすると、多額の立ち退き料の覚悟は決まりませんし、そもそも立ち退きがうまくいくとも限りません。

 

結局、背に腹は代えられないと泣く泣く1,500万円での売却を依頼することにしました。しかし、売却はスムーズに進まず、買主候補はなかなか現れず、時間ばかりが過ぎていきます。

 

不動産屋さんからは「投資家は利回りに厳しいのです。もう少し値下げも検討頂ければ売りやすいのですが。1,300万円に値下げしませんか?」という提案まで出てきてしまいました。Aさんのイライラは募るばかりだったのでした。