高齢化が進むなか、人生を共にした伴侶が先立ち、最期はひとり暮らしになる高齢者も少なくありません。そうした際に、悩みのタネとなりやすいのが、これまでの住まいをどうすべきか問題。もし売却を決断したとしても、思うようにはいかないことも多々あるようで……。本記事は、Aさんの事例とともに、高齢者が終の住処を考えるうえで重要なことについて、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
〈年金月10万円の元自営業80歳・独居老人〉思い出いっぱいのマイホームを泣く泣く手放す決意も…不動産屋から告げられた「衝撃のひと言」【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

Aさんはどうすべきだったのか?

まずは選ぶ老人ホームが自分に合っているものかどうか早い段階で、しっかりと検討をするべきでした。多くの老人ホームでは食事の試食会、体験ショートステイなど老人ホームでの暮らしを体験できるサービスを提供しているところがあります。万一に備えて、あらかじめ早い段階から主体的な判断をしておけば、いざ老人ホームに入居する際にマイホームをどうしておくべきかより精度の高い判断につながった可能性があります。

 

また、そのような事態を想定するのであれば、賃貸にする場合の知識も習得しておくべきでした。不動産の賃貸は、

 

①普通借家契約

②定期借家契約

 

上記2通りの契約方法があり、現状日本で普及しているのは普通借家契約です。普通借家契約においては、契約期間を2年とすることが一般的に多く、2年ごとに更新をして、再度2年間の契約が継続していくのが一般的です。万一、大家サイドから入居者に退去を促すためには、入居者さんに家賃の滞納など大きな落ち度でもない限り、退去には多くの労力と費用が発生します。

 

一方、定期借家契約とはその名のとおり予め入居期間が定められた契約で、決められた期間で契約が終了して、再度契約を結び直さない限りは、入居者は退去をする必要があります。Aさんの場合は、あらかじめこの定期借家契約を検討したほうが意向に合っていた可能性があります。定期借家契約であれば、定められた期間の経過後にまた自宅に戻る選択や売却の選択がしやすいためです。

 

ところが、定期借家契約は契約時や更新時において取り扱いに煩雑な部分があることなどから、借家契約の95%は普通借家契約といわれており、不動産屋からの提案として出てくることはほとんどありません。定期借家で自宅を貸し出すためには、Aさんにも自ら積極的な準備と労力が必要になるのです。

 

実際、筆者もAさんと同じような局面に立った高齢者のサポートで、不動産屋に「定期借家契約も検討したいのですが」と伝えたところ、不動産屋さんからの回答は「定期借家は賃料が安くなりますよ」というものでした。筆者が「安い賃料を仮に受け入れたら、定期借家契約はできますか?」と重ねて質問したところ、「いや、安い賃料になる賃貸契約なんてもったいないですよ」という、なんともかみ合わないやり取りになったことがあります。

 

このような受け答えになった本当の理由は定かではありませんが、筆者自身は単に「面倒くさいから」という理由があると推測しています。

 

いずれにしろ老人ホームへの入居が想定されるのであれば、早めの準備が必要です。

 

・売却がどのような前提なのか/どのタイミングで必要なのか

・老人ホームの居住を継続するかどうかの判断はいつするのか

・賃貸にするのであれば普通借家で入居者が長く住み続けてもいいのか

 

さまざまな選択肢をテーブルの上に並べ、家族も含めて意思決定判断していくことが大切といえます。

 

 

森 拓哉

株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン

代表取締役