夫に先立たれる妻…身寄りなく、不安な毎日を変えるには
男性の平均寿命は81年で、女性は87年ほどですから、同い年夫婦でも6年ほどは「夫を亡くした妻」でいなければなりません。さらに年を重ねれば、だんだんと身体が不自由になり、自宅での生活が大変になります。厚生労働省『介護給付費等実態統計月報』などから、年齢別の要介護認定者の割合をみていくと、「80~84歳」で26.4%と4人に1人、「85歳以上」で59.8%と2人に1人の水準になります。
通常、介護を必要とする人を介護するのは54.4%が同居家族、13.6%が別居家族、12.1%が事業者です。子どものいない夫婦の場合、頼れる家族は基本配偶者だけとなりますが、その配偶者を亡くせば頼れるのは事業者、ということになります。
介護を必要としていても、していなくても、残された妻はこの先の生活を不安に思うことでしょう。そこで選択肢になるのが「老人ホーム」。最近は介護を必要としていなくても入居ができる「自立型有料老人ホーム」も増えています。
入居金は0~数億円、月額費用は10万~40万円とピンキリ。費用が高いほうが設備・サービスが豪華になり、ホテルライクな毎日が実現する施設もあります。問題はやはり費用ですが、独り身の不安はなくなり、活発で健康的な生活を手にすることができるとあって、自宅を売却して、その資金で入居する人も多いようです。
――自宅を売却すれば、結構、いいホームにはいれるかも
子どももおらず、頼りになる身寄りもいない、夫を亡くした80代の妻。自宅の売却益をもとに、自立型の高級老人ホームへの入居を実現! 幸せな余生を過ごしました……誰もがそうなればいいのですが、なかにはトラブルに巻き込まれるケースも。原因は「相続」です。
子どものいない夫婦で、夫が亡くなった場合に「誰が相続人になるか」を考えていくと、まず「夫の親と妻」。しかし80代ともなると夫の親は亡くなっているでしょうから、次に「夫のきょうだいと妻」が相続人になります。しかし高齢にもなると、きょうだいの中にもすでに亡くなっているケースも。そうすると、その子どもである甥や姪が相続人になります。
夫のきょうだいならまだしも、甥や姪と仲が良い……なかなかないケースです。甥や姪にしても「えっ、お金(遺産)がもらえちゃうの⁉」と色めきだつでしょう。
――おじさんの遺産、きちんと分けてください!
妻のもとに「もらえるものはもらう!」と声高らかにやってくる甥や姪。遺産の分割方法は遺言書がなければ、話し合いで決めることになります。もちろん自宅も分割の対象。
――自宅もきちんと分割しましょう
――自宅を分割できないなら、その分、現金をください
――現金がないなら、自宅を売って分割しましょう
話は悪いほうへ、悪いほうへと進んでいきます。このような話し合いを終えたうえで、手元の資産で老人ホームへの入居を検討すれば問題ありませんが、その話し合いが終わる前に自宅の売却益を頼りに老人ホームへの入居を決めていたらどうでしょう。ホームへの入居は白紙となり、話し合いの結果によっては住む家も失うという結果に。
――まさか、なにかの間違いでは
子どものいない夫婦に起こりうる、意外に多い相続トラブル。ほかの相続人から最低でもこの割合だけは遺産を取得できるという遺留分を意識すべきケースもありますが、遺言書さえあれば多くを避けることができます。生前にきちんと夫婦で話し合い、夫(妻)亡きあとにも備えておきましょう。