老後の生活は親子3世代で……そんな姿が当たり前だったのはとうの昔。いま増えているのは「一人暮らしの高齢者」です。誰のことも気兼ねしない、悠々自適な毎日。一方で「住まい」に関して大きな問題を抱えています。みていきましょう。
年金10万円・70代の母「息子さんが保証人でも無理だね」家も借りられず…行き場を失う〈独居老人の悲劇〉 (写真はイメージです/PIXTA)

地域間の差が大きい、おひとり様の賃貸暮らし

おひとり様の高齢者の3人に1人は賃貸暮らし。ただこれには大きな地域差があります。都道府県別にみていくと、おひとり様高齢者で最も賃貸率が高いのは「大阪府」で45.3%。「東京都」「沖縄県」「福岡県」「北海道」と続きます。一方で賃貸率が最も低いのは「秋田県」でわずか16.7%。「富山県」「新潟県」「島根県」「山形県」と続きます。大都市有する地域では、おひとり様高齢者の賃貸率は高くなる傾向にあります(関連記事:『都道府県別「おひとり様高齢者の賃貸率」…1~47位〈令和2年国勢調査〉』)。

 

ただ「大都市」=「おひとり様高齢者の賃貸率が高い」というわけでもなく、地域性があります。政令指定都市と特別区の21地域で比べてみると、「大阪市」が最も賃貸率が高く55.8%。「福岡市」「名古屋市」「堺市」「札幌市」と続きます。一方で賃貸率が最も低い「新潟市」は23.5%。「さいたま市」「浜松市」「岡山市」「相模原市」と続きます。さらに東京23区内でも大きく異なり、最も賃貸率が高いのは「北区」で54.9%。最も賃貸率が低いのは「文京区」で29.1%。同じ東京23区でも20%以上の差があります。

「あなたには貸せません」…高齢者の4人に1人は「入居拒否」を経験

――母が入居審査に落ちまくっている

 

そう訴える40代男性。昨今の物価高で生活は苦しく、家賃を抑えたいと引越しを検討しているという70代の母。「一緒に暮らそう」と提案したといいますが、「住み慣れた街を離れたくない」と断固拒否されたと苦笑。仕方なく男性が保証人となり、新たに物件を借りようとしているといいます。しかし男性が非正規社員ということもネックになっているようで、「高齢者で保証人が非正規社員……これでは無理だね」と断られ続けているとか。男性も「母が家を借りられないのは、俺のせいなのか……」と肩を落とします。

 

65歳からの部屋探しを支援する株式会社R65による『高齢者の住宅難民問題に関する実態調査(2023年)』によると、高齢者の26.8%が「年齢を理由とした賃貸住宅への入居拒否」を経験。さらに「5回以上断られた経験がある」は11.9%にのぼります。

 

高齢者は3人が1人が住み替えを理由に部屋を探し、さらにその36.6%が「家賃の低い物件に住み替えるため」を理由にしています。年金受給者の半数が「収入のほぼすべてが年金」という状況。その年金の受取額は、厚生年金受給者で平均14万円。65歳以上の女性に限ると平均10万円ほどです。楽な生活ができるほどはなく、生活していくためには、固定費となる家賃は抑えたいところ。経済的な理由から引越しを検討するも断られ続け、生活は一向に楽にならず……。これが賃貸派のおひとり様高齢者のよくあるパターンです。

 

なんとか、賃貸住宅が見つかっても不安はつきません。入居後の不安として、21.8%が「住宅設備の老朽化による災害」、14.0%が「孤独死」、11.2%が「物件の建て壊しによる立ち退き」を心配しています。というのも、高齢者の4人に1人が築40年以上の賃貸住宅に在住。「もうボロボロ、でも高齢者に部屋を貸してくれるし、家賃も安いから」という暮らしをしています。“ボロ屋でも貸してくれるだけマシ”というわけです。

 

「年金は足りず生活苦」→「もっと家賃の安い所に引越しを検討」→「入居審査通らず」→「いつまで引越しができず、さらに生活苦」……そんな負のスパイラルに陥る、おひとり様の高齢者。国は住む場所の確保が困難な単身高齢者などを支援するために、検討会を設置することになりました。今後、空き家を活用した住まいの確保や、賃貸住宅に入居後の生活支援のあり方など、具体的な対策の方向性を提示する予定です。