(※写真はイメージです/PIXTA)
39歳長女を縛り付けた「家族の絆」
「家を出ると告げたとき、母は泣き叫び、父は『育ててやった恩を忘れたのか』と激昂しました。それでも、ここで私が折れたら、私の人生は終わりと思いました」
都内在住の鈴木美咲さん(39歳・仮名)。彼女は知的障害を持つ3歳下の弟がいる、いわゆる「きょうだい児」です。美咲さんの実家は、長年自営業を営んでいましたが、不況の煽りを受けて廃業。現在、74歳の父と71歳の母は、月額あわせて約14万円の国民年金だけで生活しています。弟は作業所に通っていますが、収入は微々たるもの。美咲さんが実家に入れ続けてきた月8万円の生活費と、彼女の家事・介護の手助けがなければ、一家の生活は立ち行かない状態でした。
「両親が働いていたときは、弟の面倒をみる機会が多かった。でも両親が店を閉めてからは、経済的に私が家計を支えるようになったんです。『家を出ること』は、私には不可能だと諦めていました」
転機が訪れたのは1年前です。職場の同僚の紹介で知り合った男性と交際が始まり、早い段階で結婚の2文字がちらつき始めたといいます。しかし問題は弟のこと。隠していたわけではなく、ただ言う機会がなかっただけですが、心苦しさを感じていたそうです。そしてお互いの親への挨拶という段階になり、初めて弟のことを伝えたといいます。
「彼はビックリしていましたね。そして『ちょっと考えさせてほしい』とひと言。当然ですよね、結婚は少なからず家同士のものですから」
結局、彼の親からの反対に遭い、結婚話は破談に。最終的に「ごめん、自信がない」と別れを告げられたのです。
「こういう展開は慣れっこだったんですが、一方で、このとき目が覚めたんです。ああ、私は家族を言い訳にしているだけだと。幸せになれない自分を弟のせいにしているなと。だから誰からも選ばれないんだって」
そして美咲さんは実家を出て、一人暮らしをすることを決断します。それを両親に伝えると、冒頭のような修羅場が待っていました。
「これが最後のチャンスでした。これ以上、弟を言い訳にして生きていきたくないのです」
家には、これまでと同じ額のお金を入れているとのこと。そのため家計は火の車だと美咲さんは語ります。それでも、いまだかつてないほどの清々しさを感じているそうです。