「劣等感」が低所得家庭の子供に与える「影響」
美菜のような低所得家庭の子供は少なからずいる。幼い頃から貧しいことが原因で何度も傷ついた体験を重ねているうちに、いろんなことを諦めていってしまうのだ。
彼らの中にあるのは大きな劣等感だ。「うちは貧しいから、これ以上迷惑かけちゃいけないんだ」「努力したって無駄なんだ」「自分は普通の人と比べて劣っているんだ」。そんな気持ちが生まれるのである。いくらチャンスがあっても、心が削られてしまうと、そこから抜け出せなくなる。
ある高校の教師はこう語っていた。
「経済的に豊かではない家庭の生徒は、親に負担をかけまいとして大学受験をしない傾向にあります。彼らは日常的にお金のことで親を困らせているという罪悪感を抱いています。だから、これ以上負担になってはいけないとか、自分が早く親を助けなければならないと考える。それで大学進学を諦めてしまうのです。うちの高校の場合は、入学当初から就職を希望する生徒の8割以上が所得の低い家庭の子供です」
もう一度いうが、筆者は日本の教育システムを否定したいわけではない。ただ、高所得者と低所得者が同一の地域に暮らす混在型都市の中では、低所得家庭の子供たちは、自分たちが抱えるハンディーを感じやすく、それによって劣等感が生じると、子供自身が身の回りにある様々なチャンスを放棄することがあるのだ。それだけ、彼らの中に植えつけられた劣等感が足枷になるのである。
昔、アフリカのギニアの出身である有名外国人タレントと貧困についてのトークイベントをした際に、彼がこんなことをいっていたのが印象的だった。
「僕は大人になるまで、自分が貧しいって思ったことなかったよ。周りがみんな大変だったから、それが当たり前だって思っていた。だから、つらいとか大変だったっていう記憶がないの。けど、日本はそうじゃないでしょ。子供のときから自分は貧乏だとか、頭が悪いとか植えつけられる。こんなのかわいそうだよ。僕だったら嫌になっちゃうもん」
教育格差のもっとも恐ろしいのは、子供たちのメンタルにまで入り込み、人生を壊すことなのである。
石井 光太
作家