バブル崩壊後の不況やリーマンショックのあおりが直撃した就職氷河期の被害者たち。なかには、能力は高くても思うように就職活動ができず「ようやく出た内定先がブラック企業だった」という不運に見舞われた人も少なくありません。そのようななか、『年収443万円』(講談社現代新書)著者でジャーナリストの小林美希氏が、Uターン転職した吉川さん(仮名)への取材から、氷河期世代が抱える“怒り”と“諦め”に迫ります。
手取り25万円の33歳・電車運転士「地元に帰って良かった」…東京在住時代、前職の先輩(40代後半)がつぶやいた“切なすぎるひと言”【ジャーナリストの実録】 (※写真はイメージです/PIXTA)

カツカツな生活でもそれなりに幸せ

不妊治療に対する経済的不安……「リーマン氷河期世代」の憂鬱

──北陸地方・吉川耕太(33歳)・電車運転士・年収450万円(世帯年収900万円)

 

新しい会社に転職してからのこの1年で300万円貯金しました。コロナで遠出もしなくなったけど、少し前に妻と県外に旅行に出たのは、ちょっとした贅沢です。

 

でも、普段のカツカツな生活、カツカツな働き方でいいのか、ふと、疑問を持っちゃいますよね。でも、自分のやりたい仕事に就けて、結婚して。だから、良いのかもしれない。複雑です。

 

でも、悪いことばかりではなかった。

 

運送会社にいたときの先輩のおかげで前向きな考えになれたんです。過労や上司のパワハラで心身が疲弊しきっていたとき、先輩が「失敗してもクビにはならない。命もとられない。だから、くよくよするな。小さなことは気にしないで、堂々としていろ」と言ってくれて、失敗しても反省してまた頑張れば良いと思えるようになったんです。

 

東京に居続けていたら、どうなっていたか。こっちに帰ってきて良かった。結婚して、仕事があって、それなりに幸せで。妻の存在、誰かがいてくれるというのは大きな力になっています。だからこそ、子どもが欲しいです。

 

新聞を読んでいて、ある自治体では年間40万円も不妊治療の助成金を出してくれると書いてありました。僕が住んでいる自治体はゼロです。会社によっても支援が充実しているところは不妊治療に手当を100万円、200万円と支給したり、休みをとりやすくしてくれている。なんちゅう良い会社やと、うらやましくなっちゃいましたよ。

 

不妊治療と仕事の両立はキツそう……

今まで、子育てしながら働きやすい会社には厚生労働省が「くるみん」認定をしてきたじゃないですか。それが今度、2022年4月から不妊治療と仕事を両立しやすい企業に「くるみんプラス認定」ができて、世の中の流れが変わっていると感じました。

 

僕も会社に相談したら、費用の負担は無理でしたが、休みはなんとか融通してくれると。ああ、勤める会社によって差があるなぁ。職場には独身者が多くて、既婚者は4分の1しかいないんで、なかなか理解はしてもらえないんでしょうか。

 

簡単に子どもをもてない人が増えていて、前に勤めていた運送会社の元同僚も20代でもなかなか子どもができずに悩んでいて。タイミング法があるじゃないですか、排卵日を狙っての。仕事で疲れて夜中に帰って性行為して。朝また起きて出勤して、死にそうになりながら電車を運転しているんです。排卵のあるその週は、もう、死にそうですよ。エナジードリンクでごまかして。不妊治療と仕事の両立、正直、キツイです。

 

日々の生活でも大変なのに、不妊治療は厳しいですよ。共働きでないと無理じゃないかな。もし、僕の手取りがあと5万円増えて月30万円だと、変わるかなぁ。手取り25万円あれば地元では良いほうだけど、それでも、やっぱり、理想は手取り30万円。そうすれば、このキツイと思う気持ちが変わりそうです。