終わりがみえない「値上げラッシュ」。ため息をつきつつも、どこか「値上げ」に慣れてきた感もあります。一方で低収入であえぐ人たちにとっては、わずかな値上げも死活問題。たとえば正社員に比べて低収入の傾向にある非正規社員。特にキャリアを十分に積むことができず正社員になりたくてもなれないという40~50代は、貧困状態から抜け出せずにいる人が多くいます。本記事では、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、Yさんの事例とともに、氷河期世代の非正規雇用の実情について解説します。
手取り月16万円の45歳非正規「トイレの水を流すのは2日に1度」…〈貧困・氷河期世代〉の老後への怯え【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

就職氷河期世代の苦悩

1980年代後半から1990年代初頭までをバブル景気といいます。株価・地下の高騰が実態の価値以上の評価が生じ、社会全体がいままでにない好景気を実感した時期がありました。

 

就職氷河期は、バブル崩壊がきっかけで景気が大幅に後退し、バブル時代に人員を採用しすぎていた企業が、一斉に採用人数を絞ったことで生まれた社会現象です。このころに就職活動をしていた年代の人は、雇用環境が厳しい時期であり、現在も正社員で働けずに非正規雇用で働く人や希望しない転職を繰り返している人が少なくありません。

 

就職氷河期世代は現在、30代後半から50歳前半の人が該当する世代の人です。バブル期の大卒の求人倍率は最大で2.86でしたが、就職氷河期には0.99に。バブル崩壊により、フリーター・ニートが増加した時代です。いまもなお、キャリアを十分に積むことができなかったことにより、本人の希望しない非正規社員や派遣で働く人がいます。

 

正社員になりたくても、貧困状態から抜け出せずにいる、45歳のYさんは、もう限界……負のスパイラルから抜け出せず将来に不安しかないと、迫る老後に危機感を抱いています。

大学卒業後、最初の仕事は時給710円で非正規雇用

Yさんは神奈川県横浜市に在住する45歳。小さいころはバブル景気で何不自由ない生活を送っていましたが、その後バブル崩壊、就職するころには景気の回復を祈りつつ、都内の大学に進学しました。大学の先輩が就職難に陥っている姿を目の当たりにし、就職活動に不安が募るばかりでした。

 

淡い期待に反し、就職活動の年に入っても景気の回復はなく、50社以上の企業説明会に参加するも手ごたえがなく、Yさんは正社員での就職をあきらめ、非正規雇用として働き始めました。2000年の大卒初任給の平均は男性が19万5,600円、女性は18万3,200円です(厚生労働省:新規学卒者の事務系初任給額)。

 

Yさんは時給710円(2000年度の神奈川県の最低賃金は701円)で働き始めました。Yさんが1日8時間働いたとしても大卒初任給の約6割です。毎年、最低賃金額があがっても正社員との賃金格差は変わらず、さらに雇止めになるかもしれない不安を抱え、仕事が続けられるのか、正社員になれるかどうか、常に危機感を持っています。

 

景気回復局面に入っても就職氷河期世代は回復に時間の遅れを生じている世代です。周りから遅れをとっていることへの引け目やキャリア教育ができていないことで自信喪失していることが考えられます。Yさんも同じく自分に自信がなくなっていました。