長寿化や高齢化の進展で、避けては通れない介護問題。親の介護で離職を選択する人も少なくありません。介護離職による影響は、いまの生活だけではなく老後の生活にもあるようで……。本記事ではCFPの伊藤貴徳氏が、Aさんの事例とともに、介護と家計のバランスについて解説します。
世帯年収950万円の40歳共働き夫婦、母の介護で「収入激減」さらに「年金も激減」…目の前が真っ暗の悲惨【CFPからの救済策】 (※写真はイメージです/PIXTA)

この20年で要介護認定者数は2.7倍…需要に伴い充実する介護サービス

厚生労働省令和2年度介護保険事業状況報告書(年報)※3によると、要介護(要支援)認定者数は、令和3年3月末現在で682万人になります。平成12年度が256万人ですから、20年あまりで認定者数は約2.7倍となっています。

 

また、要介護者が利用できる介護サービスの受給者数は、令和2年度が575万人となっており、こちらも平成12年度の184万人と比べると約3.1倍となっています。平成12年から開始となった介護保険制度は着実に社会へと定着し、介護に関するサービス利用者も増えています。

 

介護保険で利用できるサービスは下記のようなものがあります。

 

・介護サービスの利用にかかる相談、ケアプランの作成

・自宅で受けられる家事援助等のサービス

・施設などで生活(宿泊)しながら、長期間または短期間受けられるサービス

・訪問/通い/宿泊を組み合わせて受けられるサービス

・福祉用具の利用にかかるサービス

 

介護保険サービスを利用した場合の利用者負担は、原則1割です。必要に応じて、適切な介護サービスを選択することは介護者の負担の軽減にもつながるでしょう。

 

Aさん家族を救う手段

Aさん家族も、介護サービスの利用を検討することで、Aさんの介護の負担が軽減し、仕事への復帰なども見込めるかもしれません。これからの家族の将来を考えると、2馬力で働きながら介護サービスを活用し、母の介護を続けるのが有効とも考えられます。しかし、介護サービスの利用を検討する反面、Aさんからはこんな声も。

 

「母のことを思うと、知らない人・場所での介護よりも、やはり私が介護を続けたほうがいいのかも、とも思います。ただ、そうすると我が家の生活も大変になってくるし、なかなか母には胸中を伝えられずにいます」

 

しかし、この生活を続けるとお母様の生活はおろか、我が家の生活もままならなくなるのも事実。筆者はAさんに、素直にお母様へ胸中を打ち明け、介護サービスの提案をすることを説得しました。Aさんは将来の年金シミュレーションと現状の収支状況を多少は冷静に把握できるようになり、これからの我が子のことも思うことで、介護サービスの利用を決断しました。そのことをお母様に話すと、

 

「お世話をしてもらう度に、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。私もそれがいい。あなたたちの生活もあるんだから、そんなに気にしなくてもいいのよ。私は大丈夫」とお母様も答えてくれたそうです。

 

介護にまつわる問題は、さまざまなものがあります。金銭的なものはもちろん、介護者と要介護者の考えのすり合わせも必要になってきます。

 

「相手のため」を考えるがために、お互いの考えが食い違った状態で進んでしまうと、いい方向に行かなくなってしまうことはよくあります。Aさんは、お母様へ介護を続けることでの家計の状況の変化や、職場復帰の必要を伝えることで介護サービスの利用を提案しました。

 

現在は職場に復帰し、よいバランスで仕事と介護の両立を図っています。なかなか話しにくいことかもしれませんが、もしご家族が介護を要する状態になってしまったら。そのときのサポートの方法について、少し話し合うのもいいかもしれません。

 

<出典>

※1 日本年金機構HP

※2 厚生労働省公的年金シミュレーター

※3 厚生労働省令和2年度介護保険事業状況報告(年報)

 

 

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表