仮に物価が10%上昇した場合、生活を維持するコストも同様に10%増えることになります。すなわち、資産ポートフォリオが「現預金100%」の場合、物価上昇によって資産価値は目減りするということを認識しなくてはなりません。本稿では、テクニカル分析の解説サイト『テクニカルブック』を運営する株式会社アドバンの代表取締役・田中勇輝氏が、53歳にして貯金2,100万円を達成し、「悠々自適な老後生活」を夢見るサラリーマンの高橋健ニさん(仮名)を例に挙げ、「投資しないリスク」「預貯金依存のリスク」について解説します。
53歳・サラリーマン、「貯金2,000万円」達成で余裕見せるが…「悠々自適の老後生活」実現に”黄信号”のワケ (※写真はイメージです/PIXTA)

「預貯金依存」のリスクをシミュレーション

では、実際に物価上昇が進行してしまったときに、高橋さんにはどういった未来が待っているのか、シミュレーションをしてみましょう。

 

例えば、年間2%のインフレが続いた場合、預金の実質的な価値は10年後には約18.0%、15年後には約25.7%減少します。この場合、高橋さんの現在2,100万円の預貯金は、63歳になる10年後には実質的に約1,722万円、68歳になる15年後には約1,560万円まで目減りします。あくまで机上の計算ですが、老後2,000万円のラインを大きく下回ってしまうのです。

 

なおインフレ率2%は日本銀行が物価安定の目標として設定している水準で、通常の経済状態であれば起こりうる、ごく一般的な水準です。仮にもっと大幅な物価上昇が発生すると、預金の実質的な価値はより大きく目減りすることになるでしょう。

 

加えて高橋さんのケースで注意したいのが、大規模なリフォームや高価なオーディオ機器といった大きな出費です。これから悠々自適に暮らそうと考えている中で、もし資産が大きく目減りするリスクが現実になってしまうと、家計が厳しい状態になる可能性は決して小さくありません。

 

安定した老後生活のためにもリスク分散を

では、リスクを避けて安定した老後を送るには、どうしていけばいいのでしょうか。最後に、物価上昇のリスクに備えた資産形成のポイントを紹介していきます。

 

資産のリスク分散:預貯金以外のものに投資を行うことが大切です。その際は、インフレに強い資産クラス、例えば株式や不動産、商品(金や原油など)に、一部の資産を振り分けることを意識しましょう。

 

継続的な積立投資:投資には資産が減るリスクが伴います。資産を分散することでそのリスクは分散できますが、これに加えて投資するタイミングを分散することも大切です。これを実現するのが、毎月など定期的にコツコツと行う積立投資です。

 

非課税投資制度の活用:投資においては、NISAやiDeCoなどの投資に関する税制優遇制度を積極的に活用しましょう。例えばiDeCoは投資額を所得控除として利用できるため、節税しながら資産を増やせるメリットがあります。

 

長期的な視野を持つ:投資は短期的な利益を追求するものではなく、長期的な視野で考えるべきです。一時的な市場の変動に惑わされず、自身の資産運用計画を立てて実行しましょう。

 

適切なリスク管理:急な金融市場の変動や投資に関連する詐欺などに巻き込まれないよう、冷静な判断力と適切なリスク管理も必要です。これは専門家の意見を聞くことに加え、自身で金融リテラシーを向上させることにも繋がります。


経済/金融に関心を持つ:安定した資産形成を進める上で、経済や金融に関する知識は非常に大切です。高橋さんのように知らず知らずのうちにリスクを負わないためにも、経済に関心を持って情報収集をすることをおすすめします。

 

これらのポイントを踏まえて投資を上手に活用することで、物価上昇を含む将来のリスクに強いポートフォリオを作れるはずです。高橋さんのケースを反面教師にしながら、「預貯金依存」のリスクについて一度しっかりと考えてみてはいかがでしょうか。