サラリーマン生活の最後にもらえる退職金。誰もが大喜び!と思いきや、最近はそうもいかない人が多いようです。さらには、昨今話題の岸田首相による退職金課税宣言で追い打ちとなる可能性も……。本記事では、Aさんの事例とともに話題の退職金課税について、FP1級の川淵ゆかり氏がわかりやすく解説します。
月収70万円、60歳・部長職のサラリーマンが落胆する“衝撃の退職金額”…「岸田首相・退職金課税宣言」で今後さらなる追い打ちか【FPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

退職金の手取りがさらに減少…岸田首相の増税宣言「退職金&給料の優遇減らします」

退職金の税金の計算方法

国税庁は退職金を「長年の勤労に対する報償的給与としてひとときに支払われるものである」と定義しており、このような退職金の性格からほかの所得に比べて税負担が軽くなるように配慮されています。退職所得控除額の計算方法は、勤続年数によって異なり、退職金の税金は次のとおり計算されます。

 

・勤続年数20年以下の場合……40万円×勤続年数(80万円に満たない場合には、80万円)

・勤続年数が20年を超える場合……800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 

さらに課税対象となる退職所得金額は、退職金の額から退職所得控除額を引いて、さらに2分の1をかけて求めます。

 

たとえば、勤続年数40年・退職金2,500万円の場合、

 

・退職所得控除額は、 800万円+70万円×(40年-20年)= 2,200万円

・課税退職所得金額は、(2,500万円-2,200万円)×1/2 = 150万円

 

この場合の税率は5%となりますので、退職金にかかる所得税は150万円×5%=7万5,000円となり、復興特別所得税も含むと7万6,575円となります。このように、退職金はほかの所得よりも大幅に税負担が軽減されていることがわかります。

 

退職金の課税ルール見直しへ

退職金の課税ルールが見直しの検討に入っているという話題があるのはご存じでしょうか?

 

まず、2021年の税制改正で短期退職手当等が新設されました。短期退職手当等が新設されたことで、勤続年数が5年以下で退職所得控除差引後の金額(収入金額-退職所得控除額)が300万円を超える部分に関しては、1/2課税適用がされなくなったのです。ただし、5年以下の勤務で300万円も退職金が出るケースはほとんどありませんから、この改正については大きな話題にはなりませんでした。

 

最近話題になっているのは、2022年10月に行われた政府税調で、「勤続年数が20年を超えると控除額が増えることが、転職をためらう要因になっているのではないか」といった考えから退職金への増税が検討されていることです。これは、退職金が雇用の流動化の阻害要因となっているとして、雇用の流動化を加速させるためにも退職金に対する税制上の優遇措置の見直しが必要、という案が出てきました。

 

この制度変更の検討は、今後の退職金制度そのものを揺るがすことにつながっていきそうです。退職金の制度自体が、長期間勤務し続けた人に対して、多くの報酬を支払う仕組みにしている企業が多いため、日本企業の退職金制度や働き方に大きな影響を与える可能性があります。なお、企業年金やiDeCo等は、まとまった一時金を受け取るときに退職金と同じ計算で課税となります。そのため、企業年金やiDeCoも退職金と同じように一時金で受け取る場合は増税対象となります。

 

さらに退職金への増税は、住民税へも影響してきます。

 

※総務省HPより引用
[図表3]住民税額計算の流れ ※総務省HPより引用

 

上記のように、市町村民税(特別区民税)・道府県民税(都民税)を合わせて10%の税金が徴収されますが、課税対象となる退職所得の金額に見直しが入りますと、所得税と併せて住民税も増税となる仕組みになっています。

 

今後も「知らないうちに増税になっていた!」ということが増えていくと思います。税制の改正についてもアンテナを張り巡らせておく必要がある時代になりましたね。

 

 

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表