多くの人が加入するがん保険。がん保険加入のきっかけのひとつに「うち、がん家系だから……」と、遺伝を理由にするケースが日本では多いです。しかし、がん家系か否かを根拠に保険を選択するのは危険であると、株式会社ライフヴィジョン代表取締役のCFP谷藤淳一氏はいいます。本記事では、寺田さん(仮名・40歳)の事例とともに、がん保険検討時の注意点について解説します。
年収130万円・40歳パート主婦、まさかの「乳がん罹患」…思い込みで「給付金150万円」を逃した悲劇【CFPが解説】 (※写真はイメージです/PIXTA)

がん保険の検討…「思い込み」での判断は禁物

今回寺田さんは乳がんの診断を受けてしまい「なぜ私が……」と、その現実を受け入れることができなかったのですが、どうしてそのようなことになってしまったのでしょうか。ひとつ原因としてあげられることとして思い込みがあります。寺田さんは、以下の2点の思い込みをしていた可能性があります。

 

1.自分はがん家系ではないからがんにはならない

2.がん保険はがんになる確率が高い人にかけるもの

 

残念ながらどちらも不適切な思い込みといえるのかもしれません。今回の寺田さんのように、特に根拠のない思い込みで物事を判断してしまうと、違った結果が出てしまったときによりショックが大きくなってしまう恐れがあります。この2つの思い込みについて、どのような内容であったのかそれぞれみていきたいと思います。

 

がん家系は噂話

がん家系という言葉、日本で暮らしていると耳にしたことがある方は多いかと思います。いつ誰が使い始めたのかわかりませんが、家族・親族にがん患者がいる=がんになるリスクが高いといった意味合いで、多くの人に認識されている印象があります。

 

実は筆者自身も以前はそういった思い込みをしていました。筆者自身、祖父、母、叔父と身近にがん患者となった人がいたため、自分もリスクが高いと思っていました。ただ、このがん家系という言葉ですが、寺田さんが感じていた「私はがん家系ではないからがんにはならない」といえるほど、なにか裏付けがあるわけではありません。

 

「自分はがん家系だから……」とがんを気にするきっかけになるのであれば、それは結果としていいことであるかもしれませんが、一方で、今回の寺田さんのような判断になってしまうことは、あとでとてもつらい思いをする可能性があります。

 

「起きる確率」より「起きたとき」のことを考えた保険選びを

2つ目の「がん保険はがんになる確率が高い人にかけるもの」という思い込みについてですが、寺田さんは

 

・夫ががん家系でがんのリスクが高く、自分はリスクが低い

・だからがんになる確率の高い夫ががん保険に加入するべき

 

といった思考になったと思われます。一見合理的で正しい判断とも思えそうです。ただ、これは保険に関する基本的な考え方なのですが、保険をかける対象(今回はがんになるということ)は、もともと確率が低いものということが前提条件となります。もっといえば、確率は低いが万が一起こってしまったら経済的に困るという対象に対してかけるのが保険です。

 

ですから夫と妻でどちらががんの可能性が高いかということではなく、どちらががんになったら経済的に困るかという思考プロセスで判断することが大切です。がん保険はがんになってしまったときの治療費に備えるための保険です。夫と妻、どちらががんになったときがより治療費が掛かるのか、これには実は違いはそれほどありません。

 

冒頭に出てきた死亡保険は、稼ぎ頭で家計の大半を支える夫に、という考え方に一定の合理性がありますが、がん保険に関しては、どちらががんになったとしても、家計から同じ治療費負担が生じると考えられるので、夫婦で保険の入りわけをすることは合理的ではないと考えられます。